退職代行業者に対する企業側の対応

周藤弁護士
退職代行という言葉を良く聞くようになりましたので、今日は代行業者から退職の通知を受けた場合にどう対応すべきかを検討してみましょう。
事務局
あれ先生?
周藤弁護士
はい?
事務局
うちもやってますよね、退職代行
周藤弁護士
退職したい人から依頼されれば退職出来るように務めますし、退職されたくない人から依頼されれば退職出来ないように務めます。そういうものです。
事務局
大人の世界ですね・・・!!

退職代行とは?

依頼者の代わりに辞意を企業に伝える

さてまずは「退職代行」とは何かというところからです。2017年頃からかと思いますが、退職したいと思いつつも上司からのパワハラが怖くて言い出せない等の理由で言い出せない方に代わり、代行業者が書面で退職の意思を伝えるというサービスが出てきました。

ちょうど昨日(2018/11/27)のNEWS23でも特集が組まれていましたね。
“退職代行サービス”注目のワケ、本人に代わり「辞めます」

当事務所のように弁護士が依頼者を代理して交渉まで行うようなものもありますが、多くは弁護士資格を持たない一般企業が行っているようです。

合法なのか?

弁護士がやる分には違法を疑う方は少ないと思いますが、問題は弁護士資格が無くても大丈夫なのかという点です。

結論から言うと問題無いと考えますが、どこまでを代行業者が担当するのかによります。

例えば以下のようなケースです。

企業
はい、株式会社●●です。
退職代行業者
▲▲様の代理でご連絡しております。11月25日付で退職をご希望されていますので対応方よろしくお願いいたします。

ここまでなら依頼者の代弁をしているだけなので特に問題にはならないと思われます。では、この先はどうでしょうか。

企業
なるほど。彼は11月10日から出勤していないので15日間は無断欠勤ということになります。ですので、就業規則に基づき懲戒解雇とします。
退職代行業者
それは困ります。有給が残っているのであれば有給で処理してください。そうすれば懲戒事由が無くなるので自主退職となりますよね。就業規則を弊社に送付してください。

こうなってくると依頼者の意思と関係無く、業者が独自に企業と交渉を行っている形になりますので、違法の可能性が高くなります。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士法第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 

(非弁護士との提携等の罪)
同法第七十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
一 第二十七条(第三十条の二十一において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
二 第二十八条(第三十条の二十一において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
三 第七十二条の規定に違反した者
四 第七十三条の規定に違反した者

退職代行を使われたらどうするべきか

まずは退職代行されない企業作りを

まず大前提ですが、退職代行を使われることの無いようにするのが最優先です。

パワハラ等のハラスメントや過度な残業が無いようにというのは言わずもがな、本人のキャリアプランや仕事に求めるものをしっかりと把握した上で、企業・従業員双方にメリットのある働き方を提示することが必要です。

また、企業風土に合わない社員を採用しないよう、採用時の評価基準を見直すといったことも検討すべきかと思います。特に人手不足の昨今ですので、人手を重視し過ぎてマッチングしない社員を採用してしまうリスクは高まっていると考えられます。

他にも色々と検討すべき事項はありますが、全て書くとテーマが変わってしまうので改めてまとめたいと思います。

退職に関する法律

以前に退職に関する法律について記事を書いていますので参考に置いておきます。

退職は「基本的に」認めるしかない

対策を講じたとしても退職代行を利用される可能性がゼロになるわけではありません。いざ連絡が来たらどうするべきでしょうか。

「人手不足なのだから退職は認めたくない」という気持ちがあるかもしれませんが、退職は基本的に認めることになります。民法第627条に以下の規程があります。

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

契約社員は例外

先ほどの民法第627条ですが、「雇用の期間を定めなかったとき」とあるので、雇用の期間が定められている契約社員等の場合は適用されません。基本的には契約期間が終了するまでの間勤務することとなります。

契約社員が契約満了を待たずに退職出来るケースは、正社員が即時退職出来るケースと同じになるので後ほど記載します。

「今日退職します」は断ってもよい

先述のように、解約の申し入れは労働者が自由に出来ることになっています。但し文面を見てもわかるように申し入れを出来る時期と退職出来る時期は契約内容によって決まっています。

  • 基本・・・・・・・いつでも申し入れ可能、2週間後に退職(第627条1項)
  • 月給制の場合・・・月の前半に申し入れ可能、月末に退職(第627条2項)
    仮に後半に申し入れたとすると、翌月は退職出来ず翌々月の退職となります。
  • 年俸制の場合・・・1~12月の年俸であれば、9月末まで申し入れ可能、3ヶ月後に退職(第627条3項)
    法律上はこうなりますが、長すぎるため無効とする説もあります。

「即日退職可能」を売り文句にした退職代行サイトも散見されますが、上記の通り即日退職は法的には認められないパターンが多いです。

即時退職(即日退職)が認められるケース

労働者からの即時退職の申し入れが認められるのは、企業に何らかの落ち度(パワハラ等)がある場合です。民法第628条に規定されています。

(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

「やむを得ない事由」については以前の記事でも触れていますのでご参照ください。いずれにしても、やむを得ない事由があるか否かは交渉の範囲なので、業者から「▲▲さんは今日付けで退職します」と言われたからといってすぐに認める必要はありません

むしろ認めてしまうと同条に基づき損害賠償の責任を負う可能性もあるので注意してください。

退職代行業者(弁護士資格無し)への対応

委任状等を確認

まず、本当に依頼されているのか確かめる必要があります。考えにくいですが、人間関係のトラブルなどで他人が勝手に退職させようとしている可能性も無いとは言えません。

委任状のようなものの提示を求め、無ければ本人の意思が確認出来ないため取り合わない(本人からの連絡を求める)といった対応が考えられます。

委任状があるなら、どこまでを委任されているか確認します。退職の意思を伝えるのみであれば、退職日や退職事由については業者に代弁する権利が無いので、企業側に決める権利があるということになります。(もちろん法律や就業規則に則る必要はあります)

当該社員の雇用契約を確認

委任状等があり、退職の意思通知を受けた場合、次に対応を検討する必要が出てきます。

まずは退職代行を利用した社員の雇用形態(正社員か契約社員か、もしくはパートやアルバイトなのか)を確認します。契約社員などの有期契約社員であった場合は、いつからいつまでの契約になっているかも併せて確認します。

先述の民法第627条もしくは就業規則その他の社内規程に基づいて、雇用契約内容に応じた退職日を設定します。就業規則等に定めが無い場合、最短では正社員の「2週間後」、長いと契約社員の「契約期間満了後」などになります。

この期間を短くするように言ってくる場合は交渉事になりますので、都度本人の意思を確認出来るものの提示を求めるか、本人もしくは代理人弁護士から連絡するように要求することになります。要求を無視して業者が独自に交渉してくる場合は、非弁活動であるとして弁護士会への報告を検討されても良いかもしれません。

退職日までは欠勤扱いで良いか

例えば正社員の方で2週間後に退職と決まったとします。本来は2週間働いてもらうことになるのですが、退職代行を利用している以上、出勤してくるとは考えにくいです。そうすると、2週間の勤務はどう扱うべきでしょうか。

有給休暇が残っているからといって有給休暇扱いにする必要もありません。原則は「従業員の事前の届け出により」取得するものですから、企業側で勝手に有給扱いにすることは本来認められていません。但し、有給取得の手続きについては就業規則等に定めた方が良いでしょう。

就業規則の変更については、退職代行を利用されてから変更しても無効と解される可能性がかなり高いため、こういった事態を招かないように予め整備しておくことが必要です。

時季変更権

確認した委任状にて「有給を申請する」という本人の意思が明記されている場合、事前の届け出があるものとなりますが、これでも絶対に有給を認めないといけないということにはなりません。以前の記事にも記載したように、会社側には時季変更権があります

退職時に時季変更権が認められるかどうかは争いの余地がありますが、争いの余地がある以上は弁護士資格を持たない代行業者に対しては反論が不可能ということです。

但し、本人が改めて弁護士を付けてくることもありうるので、時季変更権を主張出来るかどうか、弁護士等の専門家に相談してから進める方が無難です。

自主退職か懲戒解雇か

基本的には自主退職とすべきですが、仮に有給休暇を取得させなかった、取得させたが退職日まで有給が足りなかったなど、退職日までに欠勤がある場合はそれを事由として懲戒解雇にすることも検討出来ます。退職金を支払う必要が無くなるため、予期せぬキャッシュアウトを抑えることが出来ます。

但し懲戒事由については就業規則に予め明記しておく必要があるため、先ほどの有給申請の手続きと同様、こちらについても今のうちに就業規則を見直しておくことをお勧めします。

また、給与についても欠勤日数分の給与を控除(減額)することも検討しても良いでしょう。これも、就業規則に給与計算についてどのように定めているかによります。

離職票の交付は義務か

離職票等の退職に伴う書類については速やかに準備しておきましょう。厳密に言うと本人からの請求が無ければ交付する必要は無いのですが、請求があった場合は交付が義務となりますので、ここで争っても時間の無駄となる可能性大です。雇用保険法第76条3項に明記されています。

第七十六条
 離職した者は、厚生労働省令で定めるところにより、従前の事業主又は当該事業主から徴収法第三十三条第一項の委託を受けて同項に規定する労働保険事務の一部として求職者給付の支給を受けるために必要な証明書の交付に関する事務を処理する労働保険事務組合に対して、求職者給付の支給を受けるために必要な証明書の交付を請求することができる。その請求があつたときは、当該事業主又は労働保険事務組合は、その請求に係る証明書を交付しなければならない。

また、ハローワークへの届け出は離職日から10日以内と雇用保険法施行規則第7条に定められています。

(被保険者でなくなつたことの届出)
第七条 事業主は、法第七条の規定により、その雇用する労働者が当該事業主の行う適用事業に係る被保険者でなくなつたことについて、当該事実のあつた日の翌日から起算して十日以内に、雇用保険被保険者資格喪失届(様式第四号。以下「資格喪失届」という。)に労働契約に係る契約書、労働者名簿、賃金台帳その他の当該適用事業に係る被保険者でなくなつたことの事実及びその事実のあつた年月日を証明することができる書類を添えてその事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければならない。この場合において、当該適用事業に係る被保険者でなくなつたことの原因が離職であるときは、当該資格喪失届に、次の各号に掲げる者の区分に応じ、当該各号に定める書類を添えなければならない。

引き継ぎを求める

担当させていた業務によりますが、例えば営業部で得意先をいくつか1人で担当していた場合、進捗やお客様の情報はその社員しかわからないということもあります。

その場合、お客様に迷惑をかけないためにも、しっかりと引き継ぎは行ってもらう必要があります。引継ぎを要請したにも拘わらず本人から何のアクションも無い場合、損害賠償を請求することも含めて対応を検討します。また、業務用の携帯電話やPCを貸与していた場合、返却を併せて求めます。

貸していたものは当然返せという話になりますが、特に引継ぎに関しては就業規則で義務付けておく必要があるので、就業規則に定めがあるか確認しておきましょう。

仮に定めが無くても引継ぎを求めることは出来ます。これも交渉になるので業者に対し、本人に連絡を取ってもらう必要があります。

退職代行業者(弁護士)の場合

委任状を確認

では今度は相手が弁護士の場合ですが、いずれにしても委任状は確認しておくべきでしょう。弁護士であれば委任状を作っていない可能性は低いと想定されます。

場合によっては弁護士を名乗っている無資格者ということもあります。地域の弁護士会のホームページなどで実在する弁護士か否か確認出来ます。

即時退職や有給取得の要求にどう対応するべきか

非弁業者の場合は代理権が無いことを理由に断れたことが、相手が弁護士の場合は断れなくなります。交渉するしかないのですが、交渉が決裂すると訴訟に発展する可能性があるため、訴訟を起こされても勝てる材料が揃っている等で無い限りは要求に応じて即時退職や有給取得を認めた方が無難です。

即時退職については民法第628条に基づき「やむを得ない事由」があると主張してくることが想定されますし、有給取得についても時季変更権が有効か否かの争いに発展する可能性があります。

引継ぎに関しても交渉になりますが、就業規則に定めが無ければ不利になってしまいます。特に対面での引継ぎは拒否されることが想定されますが、最低限書面等での引継ぎはしてもらいたいところです。

仮に訴訟に発展して敗訴した場合、相手の要求を全て認めることに加え、損害賠償責任等を負うリスクもありますのでその場の判断で要求を拒否するのは危険です。

初めから要求に応じるか、専門家に対応を依頼することをお勧めします。過去の対応に何ら問題が無く規則その他も適切に整備されていれば、仮に訴訟を起こされてもこちらの言い分を主張し争うことが出来るでしょう。

まとめ

確認すべき事項

  • 退職代行業者が弁護士なのか無資格者なのか
    無資格者であれば交渉には取り合わない方向で進めます。
  • 本人からの依頼であると確認が取れるか
  • 退職日は法律や就業規則に定められた期間より後になっているか
    これを確認するために雇用形態(正社員、契約社員等)を調べる必要があります。
  • 有給の残日数
  • 就業規則その他の社内ルール
    有給を認めるかどうか、欠勤期間の扱いをどうするかに影響します。

「退職」をどう受け止めるか

退職代行を利用するには費用もかかります。その社員は何万という費用を払ってでも、業者に辞意を代弁してもらいたいと考えたわけです。今後そういったことが起きないよう、「従業員にとって意見を出しやすい職場」について改めて考えてみる機会と捉え、一度職場環境を見直してみましょう。

また、退職代行を使わないにしても、昔ほど「1つの会社に定年まで」という考えは定着していませんので、離職率は上がっていくことが想定されます。給与形態や人員配置について、人材の流動性を踏まえた形を作れているか一度確認してみてはいかがでしょう。

例えば、一人の従業員のみが担当している業務があれば、その従業員が退職するとその業務が回らなくなってしまいます。主担当副担当のような形で複数人が担当するようにする、マニュアルを整備して新任でもすぐに業務がこなせるようにするといった対策が考えられます。

退職代行のような新たなサービスが出てくるというのは時代の変化を反映しているとも言えるので、これを機に今までのやり方や就業規則を一度振り返ってみるのはいかがでしょうか。

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