KOF98umolのガチャが違法?②返金は可能なのか
目次
さて、今回は続きです。
(前回の記事)
前回は、異なる確率の表記が有利誤認表示にあたるとされた事例を紹介しましたが、仮に有利誤認表示にあたるとして、消費者側はどのような請求ができるのでしょうか。
1.消費者契約法に基づく請求
消費者契約法とは
消費者契約法第4条第1項(一部抜粋)
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
との記載がヒントになりそうです。問題は何が重要事項になるのか、という部分ですが、これについては
消費者契約法第4条第5項(一部抜粋)
第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項(同項の場合にあっては、第三号に掲げるものを除く。)をいう。
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの
とされています。何か前回の記事で見た条文と似ている気がしませんか。
不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」と言います。)
(不当な表示の禁止)
第5条第2号
商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
そうです。景品表示法第5条第2号の有利誤認表示の条文です。互いにリンクしていると考えることができそうで、景品表示法違反の場合には消費者契約法に基づいて、原則として契約を取り消すことが出来ると考えることも一理ありそうです。
一方で景品表示法は行政処分を前提としたものであり、また、公正な競争の確保という目的もあり、私法関係を規律する消費者契約法とは法の目的が異なるため、両者の判断が異なるという立論も考えうるでしょう。ただ、景品表示法に違反した場合、一定の場合には課徴金という行政罰が課されるのですが、景品表示法第10条及び第11条によれば、消費者に返金をした場合には、一定の要件を満たした場合には課徴金が減額されるとされており(本件記事内容から外れるので詳細は省きます)、消費者に返金されるべきことが前提となっているようにも見受けられます。
「ガチャ」の取消しは可能か?
本件での「契約」とは一体何なのかというところですが、一つのガチャが一つの契約だとするといくつもの契約が存在することになります。一方で、10回分ひとまとまりのガチャ(俗に言う「10連ガチャ」)を回す場合にはそれを一つの契約とみなすことになる、と考えるのが法律的な分析になろうかと思います。取消しというのは契約が無かった扱いにするということなので、返金もされますが、キャラも消えます。
そうすると、実際にお目当てのキャラ(今回で言うクーラ)が出たが、それが1,000回目だったという場合に、999回のガチャを取り消して最後の1回だけ有効だと言うことは出来るでしょうか。心情としては、せっかく出たキャラですから保有したい(=1,000回目のガチャのみ有効としたい)と誰もが思うでしょう。しかしそうすると結果的に、1回分の料金で取得できることになり、本来の確率以上の結果をもたらすことになってしまいます。この結果をどう考えるかにかかってくるでしょう。
不当な表示をした以上、そのようなペナルティを運営側に課すのは当然であるという価値判断もあるでしょうが、そもそもそのガチャに参加しなかった人や結局お目当てのキャラが出なかった人との間で、不公平感が出ることは否めません。何より、どのキャラやアイテムが出たのか、何回目で出たのか、いくらかかったのかを特定することは困難が予想されます。
しかし一方で、ガチャ全部を取り消すとなると、恒常的に不当表示をしていた場合、すべてのガチャがなかったことになり、最悪の場合、初期状態にまで戻りかねません。
取消しの時効
しかし、消費者契約法上の取消しには期間制限があります。
(取消権の行使期間等)
第七条 第四条第一項から第四項までの規定による取消権は、追認をすることができる時から一年間行わないときは、時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。
「追認をすることができる時」とは、本件であれば「不当表示であることを知ったとき」になるでしょう。明確な基準としては、消費者庁から措置命令が出た日がありますが、例えばその前に問い合わせを行ない、事実と異なることを把握した時は、その時からということになります。もっとも、ガチャをしたときから5年経過した場合には、不当表示であることを知らなくても取り消すことはできません。
今回のケースでは、2017年6月22日にホームページとゲーム内のお知らせにてクーラの不当表示の件について謝罪と補償処置を行ったと記載があることから、遅くともこの日から1年という解釈が成り立つでしょう。
2.民法上の不法行為に基づく請求
損害賠償の規定
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
交通事故や不貞慰謝料、暴力、窃盗等の犯罪行為、そういったものの賠償を請求する根拠となるもので、代表的な損害賠償の規定です。
- 故意または過失のある行為であること
- 他人の権利または法律上保護される利益を侵害したこと
- 損害が発生していること
- 行為と損害との間に因果関係があること
が要件となります。問題になりそうなのは、3.と4.の要件です。
損害とは
損害とは何でしょうか。一見すると、つぎこんだお金という感覚はあると思います。キャラやアイテムを取得したものの、お目当てのものではなかったという場合、どうでしょうか。そもそも仮想世界のものであり、キャラに明確な価値があるわけではありません。質屋に出せばいくらで売れるのかといった類の話ではなく、あくまでゲームという世界での価値です。ゲームをしない人にとっては無価値な一方で、プレイヤーにとっては非常に重要な価値があるのでしょう。
また、ゲームの流行具合やキャラのレア度によっても上下するでしょう。そうすると、つぎ込んだお金は明確であるものの、それによって得られたアイテムの価値は正直判定ができないのではないでしょうか。(少なくとも裁判官には)
特殊層にのみ価値があるものとしては、遊戯王などのカードや、絵画でもそうでしょう。カードの場合、取引価格がベースになりそうですが、場合によっては1枚当たりの単価で計算される可能性もあるでしょう。絵画の場合は鑑定をするのが通常です。それに、どのような確率であれ、1回で出る人もいれば何回やっても出ない人もいます。そのような中で、損害はいくらであればいいのか、というのは思っている以上に理論的解読が難しい部分がある気がします。
因果関係とは
不法行為に基づく損害賠償請求の場合、因果関係も必要となります。不当表示と損害の間に因果関係が必要となりますが、あくまで確率の問題だとした場合、表示通りの確率だとしても、同じ額を投入して出ない可能性もあります。そうすると、因果関係の立証自体は困難が伴うでしょう。
また、自由意思との関連性も問題となります。すなわち、表示と実際との差について、どの程度の差があればガチャをやらなかったのか、やるとして○○円以上はつぎこまなかったのか、そういったことも分析する必要があります。どの程度の確率であったら納得するのか、表示との間の誤差がどの程度までであれば、ガチャをやらなかったのか、それは本人であっても分からないのではないでしょうか。3%のものが、実は2.5%だったらどうなのか、1%であってもやったのか、0.3%であってもやる人はいるでしょうし、この点もなかなか難しいところです。
例えば先物取引などで、証券会社の違法な勧誘によって取引に誘い込まれ多大な損失を被ったという場合、損失全てについて因果関係があるとして扱うことが多いのですが、そもそも勧誘がなければ先物取引なぞやらなかったという方も多いでしょうから、取引によって生じた損失全てを保証しろというのは理解しやすいですが、今回の場合は、仮に0.3%であってもどうしても欲しいキャラであればお金をかける人はいるでしょうし、何よりガチャ自体は自分の意思でやっている部分があるので、不当表示と損失との間の因果関係が不明確な部分があると考えています。
まとめ
消費者契約法と不法行為のどちらに基づき請求すべきか
不法行為構成だとすると、乗り越えるべきハードルがいくつかあるようにも感じたりしますが、この点の裁判例も不見当ではあるので、どんな裁判例が今後登場するのかある意味楽しみではあります。理論構成としては、取消し構成の方が無理はありませんが、どの範囲で契約が取り消されるのかは、理論的な洗練化が必要でしょう。
全く確率表示が無かった場合どうなるのか?
これについては、実は景品表示法上は取り締まることができません。有利誤認が存在しないからです。昔は、ほとんどのオンラインゲームが確率を表示していませんでした。しかし、いたずらに射幸心を煽るということで、業界の自主規制によって各社がガチャの確率を表示するようになったのです。
詐欺には該当しないのか?
じゃあ、表示しなければなんでもありなのかというとそういうわけではなく、そもそも当たりが存在しなければそれは立派な詐欺です。当たりもしないのに、目の前に「1等 ○○」と書いて景品が置いてあれば、それは当たりが入っているよという意思表示がされているわけで、お客さんとしても当たりが入っていると思うわけです。当たりがないのにあると騙しているわけですから、詐欺の要件を満たします。
(参考)日本経済新聞電子版 2013/7/29
当たりのないくじ引かせ詐欺容疑 大阪、露店アルバイト逮捕
問題は、その可能性が低い場合です。確かに当たりが入っていれば詐欺とは言いにくいでしょう。確率が書いていないわけですから、お客さんの射幸心を煽る結果となったとしても嘘をついたわけではない、というわけです。ただ、それが仮に1億分の1だとしたらもはや当たりが入っていないのと同じようなものであり、また、景品の価値に見合わないものであれば、やはり詐欺と呼んで差し支えない場合もあるのではないかと考えています。
宝くじ当選倍率も非常に低いですが、それはその確率に見合うだけの景品があるからと言うこともできそうですし、1万円の価値のものを当てるのに平均100億円をかけなければ当たらないというのでは、お客さんからしたら騙されたと思う部分もあるでしょう。ただ、明確な線引きが難しく、恣意的な運用(警察がダメと言ったらダメというような)を招きかねない部分もあるので、そのような案件で警察が立件したケースはなくハードルがかなり高いと思われます。
また、確率については記載がなくても、当選本数を記載しているにも関わらず実際よりも当選本数が少なければ、これはこれで詐欺罪にあたる可能性はあるでしょう。
結局長々と書いてしまいましたが、統一的な解釈や運用がないため、立法による解決が望まれる部分ではあるでしょう。特にゲームについては、お金を持たない未成年者が熱中するものが多く、いたずらに射幸心を煽ることによって、課金でアイテムを手に入れるために万引きや窃盗などの非行に走ったり、ひいては恐喝やいじめといった学校問題にまで発展するケースもあり、未成年者を保護するためにも規制は必要だと思います。
ということで、今回の記事はこれにて終了させていただきます。