裁量労働制①どんな制度?適用対象は?
最近、国会でも審議され、連日報道がされている裁量労働制。現行法においては、違法な裁量労働制が蔓延しており、あの大企業の野村不動産でも違法な裁量労働制を採用していたと社会的にも問題となっております。
(以下引用)
裁量労働「不当適用」の野村不社員 過労自殺と認定
裁量労働制を不当に適用し、労働基準監督署から是正勧告を受けていた野村不動産で、50代の男性社員が長時間労働が原因で自殺し、労災と認定されていたことが4日、分かった。男性は裁量労働制を不当に適用されていた社員の1人だった。(日本経済新聞電子版 2018/3/4の記事から抜粋) 引用元
適法に運用されなければ、未払残業代の請求や、過労死やうつ病等の労災案件にも発展しかねず、企業にとっても大きなリスクを生じさせます。一方で労働者にとっても、制度の悪用によって本来受け取ることが出来るはずの残業代が支払われなかったり、裁量とは名ばかりで実質的には何ら裁量のない労働が課せられたりと、労働法上も、その制度の大きな問題点が浮き彫りになっております。
スタートアップ企業やベンチャー企業にとっては魅力的に映る制度でもあり、導入例が相当数ありますが、裁判例もほとんどない分野であり慎重な検討が必要となります。
今回は制度のメリット・デメリットや運用上の問題点について、まだまだ解釈上は未発展の分野ではありますが、私なりに解説したいと思います。
裁量労働制とは?
裁量労働制とは、業務の性質上、その業務の遂行の方法や時間の配分などについて、大幅にその労働者の裁量にゆだねる必要があるため、使用者が具体的な指示をせず、労働時間については労使協定において定められた時間労働したものとみなす制度とされています。
大雑把に言えば、勤務時間や業務内容は労働者の裁量に任せます、という制度です。裁量労働制は、労働時間の把握自体は可能ではあるものの、そもそも勤怠管理になじまない業務があることを前提に、業務量ではなくその成果に対して賃金を支払うための制度と解されています。
したがって自ずから、その適用範囲には限りがあり、
- 研究開発その他特定の専門業務についての裁量労働制(専門業務型裁量労働制)
- 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務についての裁量労働制(企画業務型裁量労働制)
の2種類の業務に対してのみ適用することができます。企画業務型裁量労働制は、企業の中核を担う部門(経営企画など)で企画立案などを自律的に行うホワイトカラー労働者が想定され、今回活発に議論されていたのは、この企画業務型裁量労働制です。もっとも現在では導入障壁がかなり高く、厚生労働省が発表している最新の就労条件総合調査によれば、実際に採用している企業は1.0%にすぎません。実際に適用されている労働者は更に少なく、全労働者のうち0.4%となっています。(なお、専門業務型は採用企業:2.5%、適用労働者:1.4%となっています)
とりあえず今回は、専門業務型裁量労働制について分析します。
専門業務型裁量労働制はどのような業種に適用される?
19の業種に限定される!
何でもかんでも裁量労働制を適用できるわけではなく、法律上、適用できる職種は限定されております。専門業務型裁量労働制の場合、業務内容の専門性が高く、労働時間に基づく対価が適さない職種に限定されます。具体的には、以下の19業種となります。
- 新商品・新技術の研究開発又は人文科学・自然科学に関する研究の業務
- 情報処理システムの分析・設計の業務
- 新聞・出版の事業における記事の取材・編集の業務、放送番組の制作のための取材・編集の業務
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務(デザイナー業)
- 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー、ディレクターの業務
- 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(コピーライター)
- 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを適用するための方法に関する考案・助言の業務(システムコンサルタント)
- 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(インテリアコーディネーター)
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務(ゲームソフト作成者)
- 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(証券アナリスト)
- 金融工学等の知識を用いて行う金融(金融商品開発者)
- 大学研究者
- 公認会計士
- 弁護士
- 建築士
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 税理士
- 中小企業診断士
上記の業務のうち、労使協定で定める業務に従事する労働者の労働時間については、実際の労働時間にかかわらず、協定で定めた時間労働したものとみなされます。弁護士も入っていますね。しかし、これは限定列挙とされているので、例えば司法書士は入りませんし、社会保険労務士も適用外です。少し不思議ではありますが、現在では、このような規制となっております。もちろん、ここに挙げられていない職種には裁量労働制を適用できないので、一般的な会社にあるような営業や人事などの部門の労働者に適用できないのは言うまでもありません。
実際に良く問題になるのは2です。SE(システムエンジニア)の場合、無条件で適用できるかというとそうではありません。厚生労働省の解釈指針によれば、 「情報処理システム」 「情報処理システムの分析又は設計の業務」 とされております。まず、プログラマーには裁量労働制は適用できません。プログラマーは設計書に従って作業をする職種であり、設計書によってそもそも作成すべきプログラムが制限されており、裁量の幅が狭いためと考えられています。 したがってSEであっても、プログラミングの業務もしているような場合には裁量労働制を適用することはできません。また、上記の(i)~(ⅲ)に該当しない場合も、裁量労働制の適用外と考えられます。そして、仮に(i)~(ⅲ)に該当する場合であっても、裁量を主眼としているため、下請けのような業務ばかりしている場合には、元請の指示に拘束されていると考えられ、裁量労働制の対象外と判断される可能性もあるでしょう。 他にも、3のメディア業についても、カメラマンや音響などの技術スタッフには適用されないとか、4のデザイナーでも、デザイン自体を自由に考案できることが前提となっており、すでに考案されたデザインに基づいて図面を作成したり、製品を制作する場合は含まれないなど、解釈による制約が、実はたくさんあります。 大学教授であっても、研究が中心ではなく、いわゆる診療を行う医学部の教授や、多数の講義を行いほとんど研究時間がない教授については裁量労働制が適用されないと解釈されています。大学教授でも、熱心に講義されていたり、大学病院で診察や手術をされている教授には適用されないというのも、少し不思議ですね。講義自体には裁量がありますし、手術や診察も労働と言うには少し意味合いが異なる気がしますが、行政解釈はそのようになっています。 色々書いているとどうも長くなりそうなので、何回かに分けて書いていこうと思います。次回は「裁量」とは一体何なのか、どこまで会社は指示や拘束をしていいのかといった点について、解説します。特にSEなどのIT関係の業種で問題になる!
情報の整理、加工、蓄積、検索等の処理を目的として、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、通信ネットワーク、データを処理するプログラム等が構成要素として組み合わされた体系をいうものであること。
(i)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定
(ⅱ)入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等
(ⅲ)システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうものであること。
※プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれないものであること。その他、問題となりやすい業種