有期雇用の無期転換①申込む条件
目次
無期転換の概要
どういう制度?
2013年4月1日に施行された改正労働契約法に基づく制度となっており、厚生労働省によれば以下のような制度とされています。
同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者(契約社員、パートタイマー、アルバイトなど)からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。
契約期間が1年の場合、5回目の更新後の1年間に、契約期間が3年の場合、1回目の更新後の3年間に無期転換の申込権が発生します。
大きなポイントは「有期契約労働者からの申込みにより」という点です。通常、契約とは申込みと承諾によって成立するため、本来は使用者側もこれを拒否する自由があります。しかしながらこの制度では、条件を満たした労働者から申込みがあった場合、仮に拒否したくても法律上は「承諾した」ものと見なされます。
何を目的として導入されたのか
基本的には有期契約労働者の保護を目的としています。制度が導入される前年の2012年には約1,400万人の有期契約労働者がいるとされており、直近のデータ(2016年)では更に増加し、約1,500万人の有期契約労働者がいるとされています。(総務省「労働力調査」より。臨時雇を含む)
この有期契約労働者の方々の「雇止めの不安の解消」「処遇の改善」を目的として施行したとされています。特に1,500万人のうち900万人が女性であることから、女性が活躍しやすい環境を整えるという狙いもあるかもしれません。いずれにしても、労働者が働きやすい環境を整えることで、生産性の向上を通じ使用者側にもメリットがあるという思想のもと作られた制度となっています。
なぜ今になって取り上げられているのか?
先ほど記載したように、制度の導入は2013年です。しかし、今(2018年)になって何かと話題にのぼる機会が増えています。冒頭にも触れた通り、労働者が無期転換の申込みを行う権利を得られるのが実質今年からだからです。(早い方の場合)
詳細な条件は後ほど説明しますが、「5年以上継続」「更新のタイミング」という条件があるため、「2013年4月に契約or契約更新を行い」「途中に空白期間無く勤務し」「今年(2018年)4月以降に契約の更新がある」方の場合、次回契約からは無期転換を申し込むことが出来ます。
なので、使用者側としてもいよいよ無策ではいられない時期に来たため、話題にのぼる機会が増加しているというわけです。
そもそも有期契約労働者とは?
契約社員だけではない
有期契約労働者の代表的な例としては契約社員、アルバイトやパートタイマーの方があげられます。1年や6ヶ月といった単位での有期労働契約を締結して働いている方を指します。もちろん、この有期労働契約を継続的に更新して働いている方も含みます。会社によってはパートナー社員のような独自の呼称を用いている場合もありますが、契約が有期契約であれば全て「有期契約労働者」に含まれます。
有期契約がなぜ行われるか
2011年に厚生労働省が行った「有期労働契約に関する実態調査」を見ると、以下のような結果になっています。多いのは「業務量の中長期的な変動に対応するため」「人件費を低く抑えるため」の2つとなっています。
脱線するので詳細は割愛しますが、日本の法制度下では「解雇」が認められにくいため、有期労働契約を締結し「解雇」ではなく「契約終了」という形で雇用調整を行いたい、というのが主な理由になっています。人件費については、「この福利厚生は正社員のみに適用」といった待遇の違い等も含め、無期雇用に比べ有期雇用の労働者が不利な扱いを受けることが多くなっていましたが、こちらについても改正労働契約法において、不合理な労働条件の禁止がルール化されました。(労働契約法第20条)
無期転換を申し込む条件
労働契約法第18条
無期転換を定めているのは労働契約法第18条となりますので、まずは原文を確認してみましょう。1項と2項から成りますが、長くなるのでまずは1項のみ記載します。
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
ポイントは、
- 同一の使用者との間で締結
- 二以上の有期労働契約
- 契約期間を通算した期間が五年を超える
- 現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に
- 労働者が、当該使用者に対し~期間の定めのない労働契約の締結の申込み
となっています。一つずつ見てみましょう。
同一の使用者との間で締結された有期労働契約
「同一の使用者」とは?
まず引っかかるのが、この「同一の使用者」という点かと思います。個人事業主であればわかりやすいですが、規模の大きな企業では部長や課長の権限で契約を結んでいることもあります。この場合、部署を変わればOKなのか、企業そのものを「使用者」とするのか、どう解釈すべきなのでしょうか。厚生労働省からの通達には以下のように記載されています。
基発0810第2号 労働契約法の施行について 第5 4(2)
イ 法第18条第1項の「同一の使用者」は、労働契約を締結する法律上 の主体が同一であることをいうものであり、したがって、事業場単位ではなく、労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断されるものであること。(以下略)
法人で雇用している場合は法人単位となるため、部署異動等だけでは「同一の使用者との契約」が継続しているものとみなされます。あくまで「法人単位」なので、例えばグループ会社へ転籍させた場合は「同一の使用者」には該当しないということになります。
合併等で法人格が消滅する場合
法人格が消滅してもなお労働契約が引き継がれるのは「合併」「会社分割」が考えられます。また、法人格は消滅しないものの、労働者が別の会社で同じ仕事を継続するという点では「事業譲渡」の場合における労働者の扱いも気になるところかと思います。
まず合併の場合は労働契約が包括的に承継されるため、合併前の会社と合併後の会社は「同一の使用者」とみなされます。会社分割の場合も同様です。
特殊なのは事業譲渡で、この場合は事業を譲渡する側、つまり元の雇用元からの退職後、事業を譲り受ける側によって新たに採用されるという手続きが一般的であり、この場合はあくまで別契約となり、「同一の使用者」に該当しないとされています。ただ、事業を譲るならその事業に従事していた労働者との契約も当然に承継される、つまり「同一の使用者」として考えるべき、という議論もあることから今後解釈が変わってくる可能性もあります。
いずれにしても、合併等で別の会社で勤務していた労働者を受け入れることになった場合、勤続年数等を確認しておく必要があるでしょう。事業譲渡の場合も、労働者側が申し出てくるリスクはありますので、同じく勤続年数を確認することでそういったリスクを把握しておくことをおすすめします。
二以上の有期労働契約
2013年4月1日以降に開始する労働契約が対象
まず、2013年4月1日以降に2回労働契約を更新している必要があります。2013年4月1日以降の勤続年数が5年を超えていても、その労働契約が2013年3月31日以前に結ばれたものであった場合はカウントされません。下図の場合、どちらも2013年4月1日以降の勤続年数は5年を超えていますが、下の場合は一つ目の契約が2013年3月31日以前に結ばれたものであることから対象になりません。少なくともあと1回、あと2年は有期契約労働者として勤務する必要があります。
労働契約の内容が異なる場合
パートタイマーの方が、働きぶりを評価されて契約社員になることもありますが、こういった場合の「パートタイマーとしての有期労働契約」「契約社員としての有期労働契約」は別の契約とはみなされません。労働契約の内容が同一である必要はないため、「二以上の有期労働契約」が締結されているものとされます。
クーリングとは?
一つ目の有期労働契約が終了した後、間を空けずに二つ目の契約を開始しないと「二以上の有期労働契約」にならないわけではないのですが、例外があります。それが所謂「クーリング」と呼ばれるもので、先ほど省略した労働契約法第18条の2項に定められています。後で図を使ってまとめているので、条文は読み飛ばしていただいてOKです。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。
空白期間(「クーリング期間」とも呼ばれます)がある場合、空白期間より前の有期労働契約(図でいう「契約期間①」)はカウントされないというものですが、空白期間とみなされるための条件があります。
- 契約期間①が1年未満の場合 → 空白期間が契約期間①の半分を基礎として厚生労働省令で定める期間以上の長さであること
厚生労働省令で定める期間というのは以下の通りです。(「契約期間①の長さ」:「厚生労働省令で定める期間」の順で記載しています)
要は「2で割って、端数を切り上げした期間」となります。- 10ヶ月超~1年未満 : 6ヶ月
- 8ヶ月超~10ヶ月以下: 5ヶ月
- 6ヶ月超~8ヶ月以下: 4ヶ月
- 4ヶ月超~6ヶ月以下: 3ヶ月
- 2ヶ月超~4ヶ月以下: 2ヶ月
- 2ヶ月以下 : 1ヶ月
- 契約期間①が1年以上の場合 → 空白期間が6ヶ月以上の長さであること
という条件になります。従って、新たに従業員と有期労働契約を結ぶ場合、過去に自社で勤務していた経験が無いか確認する必要がありますが、直近半年の勤務経験を確認出来ていれば大丈夫ということになります。このように、クーリングという制度は「過去長期間に遡って勤務経験の有無を確認する負担を減らす」ための制度となっています。
但し、空白期間や契約期間が複数出てくると少し難解になります。
空白期間①がクーリング対象として認められれば、契約期間①はカウントされなくなるというのは先ほど説明した通りです。なので、空白期間②がクーリングの対象となると契約期間②もカウントされないのはわかると思います。
では、空白期間①が短く、クーリング対象として認められない場合はどうなるでしょうか?空白期間②がクーリングの対象となるかどうかの期間の計算は、直近の契約期間の長さによって決まるとお伝えしました。しかし、この場合は契約期間②の長さだけで判断してはいけません。空白期間①が短いことから、契約期間①と契約期間②は同一のものとみなされるため、「契約期間①+契約期間②」の長さを基準として、空白期間②がクーリングの対象となる長さかどうかを判断することになります。
契約期間を通算した期間が五年を超える
2013年4月1日以降に開始する労働契約が対象
これは先ほど触れた通りです。
五年を超えて「勤務している」必要は無い
「契約期間を通算した」期間が五年を超える、であって「契約の元『勤務』した」期間では無いことがポイントです。
通算5年となる前に雇止めをすれば回避可能?
条件を満たす前に雇止めをしようと考える事業主もいらっしゃいますが、そう単純にはいきません。労働契約法第19条に以下の定めがあります。
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
要するに、一は「今まで継続的に更新されてきたので、実質的に無期労働契約となっている」、二は「労働者側が契約が更新されると期待する何かしらの理由がある」というものです。このいずれかに当てはまる場合、簡単に申込みを拒絶することは出来ません。上記の通り、「合理的な理由がある」「社会通念上相当である」場合のみ申込みの拒絶が可能になります。
現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間
いつからいつまで申し込み可能か
先ほど触れた通り、通算5年を超える契約が始まった時から終了する時までになります。図で言えば、2016/4/1~2018/3/31が申込可能な期間となります。
ただ、実際は前日に言われても困ると言ったこともあるでしょうから、合理的な範囲において申込期限を就業規則に定めることは可能でしょう。
申込み方法
申込み方法は特に法に定めはありません。就業規則に定めが無ければ、口頭でも可ということになります。雇う側からすれば口頭では受けたくないでしょうから、ここもやはり事前に定めを置く必要があるでしょう。不当に労働者側が有利になる(休みが増える、給料が上がるなど)ような申込みをさせないなど、条件も含めて定めることを推奨します。
なお、例外は常時10人以上の労働者を使用し、かつその労働者が有期契約労働者のみの事業場の場合です。就業規則について、労働基準法第89条に以下の定めがあります。
労働基準法 第89条
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
(中略)
10.前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
先の場合、無期転換の申込手続は「事業場の労働者のすべてに適用」されるため、就業規則に定めを「作った方が良い」のではなく、「作らなければならない」ので注意してください。
労働者が使用者に申込み
「労働者」とは
例えば大学生のアルバイトが、大学1年から、大学院に進学するなどして5年以上学生バイトのまま勤務した場合でも無期転換を申し込めるものなのでしょうか。答えはイエスです。使用者と有期労働契約を締結した労働者であれば、業務の内容や待遇に拘わらず全て無期転換を申し込むことが出来ます。
また、「労働契約」でなければOKかと言うとそうでもありません。無期転換の話に限りませんが、請負契約や委託契約の形を取っていたとしても、契約元が指揮監督権を有しており実質的には労働契約である場合などは労働契約だと見なされ、これも「労働者」とされます。
有期である代わりに手当を付けるなど、有期契約を優遇する制度がある場合は、無期転換申込をされた場合、その優遇制度は残ったまま契約期間は無期になる、という事態も生じえます。ここでも就業規則の見直しなどの対策が必要となります。
なお、全て申し込めると言いましたが、有期雇用特別措置法というものがあり、これに該当する高度専門職に関しては一部例外があります。次の項で説明します。
高度専門職の特例
厚生労働省によると、以下の条件があります。詳細は厚生労働省ホームページをご覧ください。
- 年収要件
有期労働契約期間における1年あたりの賃金が1,075万円以上であること - 次のいずれかに当てはまること
- 博士の学位を有するもの
- 公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、 社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士または弁理士
- ITストラテジスト、システムアナリスト、アクチュアリーの資格試験に合格している者
- 特許発明の発明者、登録意匠の創作者、登録品種の育成者
- 大学卒で5年、短大・高専卒で6年、高卒で7年以上の実務経験を有する農林水産業・ 鉱工業・機械・電気・建築・土木の技術者、システムエンジニアまたはデザイナー
- システムエンジニアとしての実務経験5年以上を有するシステムコンサルタント
- 国等(※)によって知識等が優れたものであると認定され、上記1.から6.までに掲げる者に準ずるものとして厚生労働省労働基準局長が認める者
上記の条件を満たしている労働者との契約に際し、さらに以下の状況の場合、最長10年間は無期転換申込権が発生しません。
- 適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた事業主が雇用すること
- 高度の専門的知識等を必要とし、5年を超える一定の期間内に完了する業務(特定有期業務)に従事させること
「特定有期業務」には、仮に期間の定めがあったとしても、毎年行っているような業務では認められません。 企業でいう「〇〇プロジェクト」のようなものをイメージされています。また、無期転換申込権が発生しないのはプロジェクト期間中の最長10年です。それまでにプロジェクトが終了する場合は、プロジェクトの終了後から無期転換申込権が発生します。
このあたりになってくると、計画の作成等独力で行うのは大変になりますので、自己判断せずに専門家に一度相談されることをおすすめします。
使用者はどういった対応をすべきか
真っ先に考えるべきなのは無期転換する労働者の活用方法です。仕事の多寡に合わせて雇い入れたり雇止めをしたりといったことが出来なくなるため、中長期的な視点を持って考えなくてはなりません。どのような仕事をさせるのか、それをどう人事考課に反映させるのか、またそのためにどのような教育訓練を行うのかを考えるとともに、それを実現するための就業規則の見直しも必要になってくるでしょう。
また、場合によっては労働組合が無期転換労働者を組合員として迎え、労働条件の更なる改善を要求してくる可能性もあり、様々な視点から準備を進める必要があります。
長くなってしまったので、詳しくは次回にご説明出来ればと思います。