内定辞退はいつまでに伝えれば良い?出来ないことはある?

事務局
先生!最近退職の記事ばかりで飽きたと言われています!
周藤弁護士
えっ本当?誰から?
事務局
私です!!!
周藤弁護士
・・・・・・。
周藤弁護士
ま、まぁいいか。では逆に、採用時のトラブルについて触れてみましょうか。

2008年のリーマンショックの時期には新卒の内定取消が取り沙汰されていましたが、逆に「内定を辞退したいがどうしたらいいのか」といった相談も多く受けます。特に中途採用においては転職エージェントを利用される方も多く、エージェントから「内定辞退は出来ない」と言われるケースも目立つようになりました。

求人票と実態が異なるのは違法なのか

求人票と労働条件が完全に一致している必要は無い

内定後に、求人票や面接のときに聞いていた条件と実態が異なる、いわゆる「求人詐欺」にあった場合、それを理由に内定辞退や退職をすることは可能なのでしょうか。

まず前提として、求人票の記載がただちに労働条件になるわけではありません。しかしながら、いざ内定・入社の段階になって突然求人票と異なる条件が記載された雇用契約書にサインを求めるような場合、内定者は他の就職活動を既に打ち切っているわけですから、サインを断れない状況に追い込まれているのが通常です。

裁判例でも、例えば京都地裁平成29年3月30日判決では、特段の説明のないまま内定を出し、その後に求人票と異なる労働条件の通知書にサインを求め、労働者がこれに署名押印したケースに触れています。本判決では、「求人票と異なる労働条件を提示することについて何ら説明がないまま内定に至ったこと」を重視し、求人票に記載されている労働契約が成立したと判断しました。さらに、労働者が労働条件通知書に署名押印したことについても、労働者の置かれた立場を考慮し、合意があったものとは認められないと判断しました。

ただ一方で、賃金についてあくまでも見込額であると記載されていた場合など、その後の変更が予測できかつ見込額との乖離が大きくなければ、求人票と異なる賃金額であっても適法とされた裁判例もあるので、求人票の記載内容やその後の会社側の説明によって左右されると言えるでしょう。

不一致である説明が不十分であれば違法性を主張出来る

最初の話に戻ると、求人詐欺のような労働者の不意打ちになる労働条件変更については、求人票通りの労働条件が認められる可能性が高くなると言えます。労働者側としては、このような会社で勤めることができないと思えば内定辞退も問題無く出来ますし、入社後でも場合によっては即時退職が可能になります。

使用者側としては、できる限り透明性の高い説明をする必要がありますし、求人票の記載と実際の労働条件に齟齬がある場合や、労働条件が未だ確定していない場合には、求人票の記載に気を付ける必要があります。

内定後に誓約書を出しても辞退可能か

基本的に問題にはならない

労働者には職業選択の自由があることから、内定辞退は広く認められております。但し内定先が民間企業の場合は、採用内定の段階で労働契約自体は成立していると判断される可能性がありますので、退職と同じく2週間以上前に辞退した方が安全です(民法第627条第2項)。

逆に言うと気を付けるべきなのはそれくらいで、会社の承諾等は一切必要無いと考えて構いません。内定を承諾した後でも同様です。入社後に「退職の自由」が保障されている以上、入社前の内定辞退の自由も当然に保障されているからです。

会社が損害賠償を匂わせてくることもありますが、内定辞退による損害も織込んだ上で採用活動をすべきと通常考えられているため、基本的に応じる必要は無いと考えられます。

入社直前の辞退でも大丈夫なのか

先ほど2週間以上前に辞退した方が安全と言いましたが、もし入社まで2週間を切ってから内定辞退をした場合どのように判断されるのでしょうか。

東京地裁 平成27年8月25日判決

就労開始日前日における内定辞退について「一日も就労することなく,本件雇用契約の解約を申し入れたとしても,『当該解約の申入れが著しく控訴人(注:会社)との間の信義に反するような場合でない限り,違法なものとはならない』と考えられる。」とされています。本件ではお母様の健康状態を考慮して内定辞退したのですが、これも違法ではないとされています。

ただ一方で「本件採用辞退行為による解約の申入れから本件雇用契約が終了する時までの間(民法第627条第1項後段参照),被控訴人(注:労働者)において債務不履行があったとみる余地がある」としており、内定辞退から2週間は就労義務があるようにも読める判決です。

なおこの判決では、採用に要した費用については。採用活動によって当然に発生する費用であり、内定辞退によって発生した費用ではないとして、労働者は賠償義務を負わないとしています。

東京地裁 平成24年12月28日判決

新卒採用者の入社日前日での辞退について「入社日までに上記条件成就を不可能ないしは著しく困難にするような事情が発生した場合,原告は,信義則上少なくとも,被告会社に対し,その旨を速やかに報告し,然るべき措置を講ずべき義務を負っているものと解される」とされており、内定辞退する事情があれば早期に報告することは内定者の義務としています。

しかしながら続きには「ただ,その一方で,労働者たる原告には原則として「いつでも」本件労働契約を解約し得る地位が保障されているのであるから(民法627条1項),本件内定辞退の申入れが債務不履行又は不法行為を構成するには上記信義則違反の程度が一定のレベルに達していることが必要であって,そうだとすると本件内定辞退の申入れが,著しく上記信義則上の義務に違反する態様で行われた場合に限り,原告は,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。」とあり、結果的に内定者は責任を負わないと判断しました。

ただ、本件では会社側が内定辞退をある程度予期していた部分もあるので、新卒者の場合はできる限り早く辞退するに越したことはなさそうです。

中途採用の場合

中途採用者の場合は、内定から就労開始日までの期間が短く、そもそも2週間以上前に辞退することが不可能といったケースも想定されます。その場合でも、内定辞退を決めた段階で速やかに会社に申し出ることが肝要でしょう。

逆に会社としては、「内定をご辞退される場合には●月●日までにご連絡ください」という書面を作成することも考えられますが、あまり一般的ではないように思われます。内定辞退を前提に内定通知書を出すのも奇妙ですし。ただ、こういった書面があれば、期日以降に辞退された時に、既に会社は就労に向けて準備をしていたとして、内定辞退者の責任を認める要素になりうるかもしれません。

ただし、内定辞退者に責任を認めた例は無いので、基本的にはある程度の辞退リスクは織り込みつつも、辞退率を下げる営みに注力すべきでしょう。

エージェントが「内定後は辞退出来ない」と言ってきた場合

エージェントの有無と内定辞退の可否は関係しない

労働者には職業選択の自由があることから内定辞退は広く認められていると言いましたが、それは間にエージェントが入ったとしても変わりません。転職サイト等では、入社の意思を示した後の辞退はNGというような記載がかなりありますが、そんなことはありません。

エージェントには入社を以て紹介料が入るため、入社前に辞退されると困るのだろうと思いますがそれはエージェント側の都合であり、転職者には関係無いことです。
※今後そのエージェントを利用できなくなるとは思いますが。

内定辞退はエージェントと内定先どちらに伝えるべきか

辞退方法としては、辞退理由を付した上でメールなど証拠に残る形でエージェントに対し辞退の意思表示をし、これ以上の就職を強要するようであれば、念のため会社にも謝罪を含めた辞退の書面を送る方が後日の争いを防ぐ意味でも良いと思います。直接の辞退の意思表示先は会社ですので。

ただ、もしかしたらエージェントの規約等があるかもしれませんので念のため確認された方がよろしいかと存じます。もっとも、辞退にエージェントの許可を必要とするような規約であれば、職業選択の自由を制約していることから無効と考えるのが自然だろうと思います。違約金を定めている場合でも無効と解される可能性は高いでしょう。

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