専門業務型裁量労働制とは?導入手続は?

事務局
先生!裁量労働制のブログ読みましたよ!
周藤弁護士
ほう。どうでした?
事務局
私の出番がありませんでした!!!
周藤弁護士
そ、そっかぁ。
事務局
と、いうわけで!今回は私もちゃんと参加しますよ!裁量労働制をいざ導入するにはどうしたらいいか教えてください!
周藤弁護士
わかりました(笑)専門業務型と企画業務型がありますが、今日は専門業務型に絞りましょう。ざっくりと言うと、労使協定を結び、届け出る必要があります。
事務局
労使・・・協定?届出って・・・どこに・・・?
周藤弁護士
順に説明しますね(笑)

労使協定とは?

まず、過半数組合又は過半数代表者と労使協定というものを結び、労基署に届け出る必要があります。

過半数組合は事業場の過半数の労働者が所属する労働組合なので、分かりやすいかもしれません。一方、過半数代表者とは、事業場の従業員の過半数の支持を得て選出された従業員代表者のようなニュアンスですが、選出手続きに細かい規定があります。それは、①管理監督者でないこと(正確には異なりますが、役職の高い人というイメージで差し支えありません。)、②選出の目的を明らかにし、民主的手続により選出されていること、が要件となっており、これらの要件を欠く場合には無効と解されています。(最高裁平成13年6月22日判決)

なお、行政解釈上、適法な選出と言えるには、選出される者に「労働者の過半数を代表して裁量労働制導入の適否を判断する機会」が与えられ、かつ「当該事業場の過半数の労働者がその候補者を支持している」と認められる民主的な手続がとられていることが必要である、とされています。例えば、労働者の話合いや持ち回り決議等、労働者の過半数が当事者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続が該当する、とされています。

このように、労働者側で自主的に決めるのが法の建前とされているので、会社が指名した場合には無効と解されています。会社が指定した候補者に対して信任投票を行う場合であっても、民主的な選任方法と言えるかは疑問でしょう。ただ、会社としては、労働者側が選任してくれないといつまでも労使協定が締結できない可能性があるため、このような指名方法をとって労使協定を締結してしまっているのが実情ではないかと思います。

事務局
じゃあ自主的に決めてもらおう!と言っても、選任が進まないと困っちゃいますよね?「私やります!」みたいな人がいればいいですけど、なかなかいないですよねぇ・・・
周藤弁護士
担当の従業員を選定しておき、その者が中心となって、過半数代表者を選ぶのが良いでしょう。
事務局
なるほど、人事部とかにそういう担当があればいいんですかね!

 

一つ争点になりうるのは、裁量労働制の適用を受けない、全く無関係の者が過半数代表者となって良いのか、という点です。法は、そのような限定を付しているわけではありませんが、建設的な議論を行なうためには、裁量労働制の適用を受ける労働者の中から選定した方が安全だと思います。労使協定が実情を反映していないとして、無効と解される余地がないとは言えないからです。

とにもかくにも、労使協定の締結手続に違法があると労使協定自体が無効となり、裁量労働制すべてが違法になるので、導入の際には専門家を交え、適正な手続を踏んで進めるべきでしょう。

労使協定の内容(専門業務型裁量労働制の場合)

定めが必要な事項

専門業務型裁量労働制の場合、労使協定では以下のことを定めることになります。詳しくは、厚生労働省のホームページに記載されていますので、参考にしていただければと思います。

  1. 対象業務及び従事労働者の範囲
  2. 業務の遂行手段、時間配分の決定などに関し、使用者が労働者に具体的な指示をしないこととする旨の規定
  3. その業務に必要な 1 日当たりの「みなし労働時間」
  4. 有効期間(3 年以内とすることが望ましい。)
  5. 労働時間の状況に応じた労働者の健康・福祉確保のための措置
  6. 苦情処理措置
  7. 上記5.及び6.の措置に関する労働者ごとの記録を労使協定の有効期間中及び有効期間満了後3年間保存すること

労使協定の内容としては、厚生労働省HPに例があるので参考にしてください。

そして、上記に基づき作成した労使協定は、所定の様式(厚生労働省HPに掲載)により所轄の監督署長に届け出る必要があります。

「みなし労働時間」とは?

特に問題となるのは、3.の「みなし労働時間」の長さについてです。例えば、「8時間」と定めれば、どれだけ働いても8時間とされるため、定額残業制などと揶揄されるわけです。理屈上は、例えば4時間と定めても良いわけですが、あまりにも労働実態から乖離している場合には無効と解される可能性もあるでしょう。

また、業務過多で、事実上時間配分の裁量がなく働き詰めとなった場合には、2.に反し無効と解される可能性も出てくると考えられます。いずれにしても、業務量に見合ったみなし労働時間を設定すべきであり、そのためには先ほども述べた通り、裁量労働制の適用を受ける者を過半数代表者として選定した方がいいと思っております。

次に、行政解釈上は、みなし労働時間は1日あたりの労働時間についてのみ定めることができ、例えば「1週間あたりのみなし労働時間を40時間とする」といった定めは出来ないとされています。したがって現状では、土日等の休みの日に出勤した場合には、別途割増賃金も含め賃金を支払う必要があります。一方で、休日においても、みなし労働時間の適用があるのかといった点については、解釈が分かれておりますので、実労働時間に基づいて計算した方が安全と言えるでしょう。

なお、みなし労働時間を9時間とした場合、毎日1時間相当分の残業代を支払うことになるのは言うまでもありません。そのため、裁量労働制を採用する会社では固定残業代制度も併せて導入している会社が多く、その点についても法的にケアしていく必要があります。

事務局
みなし労働時間が多過ぎると人件費の負担になるし、少なすぎると無効になったりするリスクがあるということですね。導入前から、しっかりと勤務時間を把握しておかないとみなし労働時間を決めるのも難しくなってしまいそうです。

「有効期間」とは?

次に4.の有効期間を定めることも必要とされています。厚生労働省の通達では3年以内とすることが望ましいとされ、多数の企業は3年の有効期間を設けています。これは、定期的に労使協定の内容を見直し、それぞれの時代に合った労務管理をすべきとされているからです。

したがって、いたずらに長い有効期間を設定しても無効と解される可能性が高く、3年以内で設定するのが無難でしょう。もちろん、有効期間なので、その後再度届出を行わなければ裁量労働制自体が無効となるため注意が必要です。自動更新条項を設けるケースも多いですが、労基署には有効期間が終了するたびに労使協定を届け出る必要があります。

「健康・福祉確保措置」とは?

5.の健康・福祉確保措置については、まず第一に対象労働者の勤務状況を把握することが必要です。裁量労働制であっても労務管理をしなくて良いわけではなく、使用者には健康配慮義務があることから、やはり時間管理をする必要があるでしょう。したがって裁量労働制においても、タイムカードを導入している企業は多いのです。

また、健康・福祉確保措置としては、厚生労働省は次のものを挙げています。

  • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること
  • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
  • 働き過ぎの防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
  • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
  • 働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言、指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、裁量労働制のもとで労働させることが適切でないと判断した場合には、負担を減らしたり、裁量労働制の適用者から外すなど、必要な見直しを行うことを協定に含めることが望ましいでしょう。

事務局
自主的に頑張ってしまう方もいらっしゃいますが、張り切り過ぎて体を壊されてしまっては元も子もないですもんね。そういう方は一旦裁量労働制の対象から外すなりして強制的にオーバーワークを止めさせるべきなのかもしれません。

「苦情処理措置」の定め方

6.の苦情処理措置については、その内容を具体的に明らかにすることが必要であるとされています。厚生労働省によれば、苦情の申出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等を明らかにすることが望ましいとされています。

そして、窓口担当者を使用者や人事担当者以外の者とするといった工夫をして、対象労働者が苦情を申し出やすい仕組みとすることや、取り扱う苦情の範囲に「対象労働者に適用される評価制度、賃金制度及びこれらに付随する事項」に関する苦情も含むことが望ましいとされております。

「良い」裁量労働制とは

このように、導入するに際して色々な定めを設けたり、手続をしたりする必要があるのです。裁量労働制は、労働の酷使につながる危険性があることから(現在では、まさにそのように使われている部分もあります)、労働者の適切な処遇や健康管理といった社内制度を整えて初めて導入できるものであり、決して定額で働かせ放題などといった使用者のための制度ではありません

ただ、裁量労働制を適切に運用すれば、より柔軟で多様な労働環境を築くことができ、労働力の効率的な配置や人件費の適切な分配に資する面があることは、この制度のメリットです。しっかりとした地盤を作り、適切な裁量労働制を導入することで、福利厚生やワークライフバランスの整った優良企業であるとのイメージにもつながりますので、大きなメリットの得られるような導入を実現するための十分な検討が望まれます。

事務局
なるほど!よし先生!事務所にも裁量労働制を導入しましょう!
周藤弁護士
うちの事務所の職員では要件を満たさないですよ。以前そんな話しましたよね・・・?
事務局
・・・
事務局
・・・
事務局
読み直してきます!

適用対象についてはこちらの記事をご覧ください。

事務局
読んできましたよ!そういえば先生。
周藤弁護士
早いな(笑)なんでしょう?
事務局
適用対象に弁護士が入ってましたが先生にも適用出来るんですか!
周藤弁護士
業務的にはともかく、私はそもそも事業主なんで・・・
事務局
そりゃそうだ(笑)

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