フリーランスが顧客と契約する際の法律ポイント
目次
フリーランスとは?
「この人はフリーランスだ」「この人はフリーランスではない」という明確な線引きがあるわけではありません。中小企業庁の小規模企業白書には以下のように記載されています。
広い意味での小規模事業者の中で、近年、ソフトウェアの設計・開発(SE)、ウェブデザイン、ライティング、翻訳・通訳など、自らの持つ技術や技能、スキルを拠り所に、組織に属さず個人で活動する、いわゆる「フリーランス」と呼ばれる事業形態が、注目されるようになってきている。「フリーランス」については、必ずしも明確な定義がある訳ではなく、自らが持つ専門的な技能を提供する事業者が、業種・職種の壁を越えて、横断的に形成されていることが想像されつつも、その実像を把握することは困難であった。
(2015年版小規模企業白書より)
ちなみに先ほど事務局が言っていた「槍」というのはあながち間違いではなく、フリーランス(freelance)のlanceは「槍」のlanceと同様です。中世の傭兵は槍騎兵が多かったため、傭兵団と未契約の槍騎兵を指して「フリーランサー」と呼んだのが語源とされています。現代ではシステム構築や翻訳など、自身のスキルが「槍」となっているわけですね。
【ランサーズ】フリーランス実態調査2018年版によれば、日本国内のフリーランス人口は2015年の913万人から2018年では1,119万人と、3年間で実に22.6%の増となっています。日本の人口が減少傾向であることを考えると、フリーランスの拡大は著しいと言えるでしょう。
しかしながら、定義が明確になっていないことからも推察されるように、フリーランスを守る法制度はまだまだ完備されているとは言えません。会社で働いていた頃のように、労働基準法によって守ってはもらえません。また、企業は契約事に慣れていますが、こちらは不慣れということも多いかと思います。よく契約書を見ずに契約したところ、自分にとって不利な契約を結んでいたということも起こりえます。
今回はテーマを「契約」に絞り、よく起こりがちな問題をいくつかご紹介します!
フリーランスが気を付ける法律上の問題
契約の「自動更新」
契約期間が定められていれば、それはあくまで有期契約となります。
自動更新については「本委託業務の期間は平成○年○月○日より平成○年○月○日までとする。ただし,期間満了の1か月前までに甲または乙から書面による解約の申し出がないときは,本契約と同一条件でさらに1年間継続し,以後も同様とする。」といった形で書かれているのが通常ではあります。自動更新条項に前提条件がない場合には、別の解約条項等を参考に判断されるのが通常ですが、契約内容から解約条件が分からない場合には、「最終日までに『更新しない』旨を伝えれば、契約不更新が可能」と判断される可能性があります。また、仮に自動更新された場合の契約期間や契約条件も問題にはなるでしょう。
ただ、契約書や契約締結の経緯によって様々な解釈の仕方があるので、具体的にどのような解釈が予想されるかは個々のケースによります。有期契約であるとすれば、後は解約手続をどうすべきか、契約書や契約締結に至る経緯等を分析して判断することになります。
納品物の完成間際にキャンセルされてしまったら?
法律上、「請負契約」と「(準)委任契約」が民法には定められており、「結果を保障するかどうか」「過程の業務を評価するか」に違いがあります。請負の場合は、「仕事の完成」と言って、制作物を完成させて相手に引き渡さなければ報酬は発生しません。一方で委任の場合には、その製作過程において委託された仕事を誠実にこなしていれば、業務の割合に応じて報酬を請求できます。
一方で準委任契約は「法律行為ではない事務」を委託するもので、例えば自社製品に施すデザインを外部に頼むといったような契約ですね。請負でない場合ですが。
今回のようなケースでは、「契約は請負か委任か」「債務不履行はあるのか、あるとするとどちらの責任割合が大きいか」「現在の工程はどこまで進んでいるか」等の事情によって左右されます。例えば請負契約の場合、仕事の完成によって報酬請求権が発生することから、仕事の完成前では原則として報酬を請求できません。一方で委任契約の場合、出来高払いが原則ですので、工程に従って報酬を請求できる可能性があります。
最終的に請負契約だと判断された場合は、仕事が完成しないと報酬が請求出来ないことになるので、今回のケースではお金が貰えなくなっちゃうわけですか?
その他、裁判所では、現在では様々な法律構成によって、報酬相当額の支払いを認められております。もちろん、各々要件があるので、必ずしも認められるわけではありませんが。
とにもかくにも、ご自身のケースについて詳しく知りたい場合には、直接弁護士にご相談されることをお勧めします。損害賠償請求についても、残りの代金等については可能なこともあるでしょう。
契約期間の数え方
何かしら契約書に明記されていれば別ですが、基本的には「契約日から10年間」となっているのであれば、その日から10年間ということになるでしょう。
厳密に言うと民法には下記の条文があるので、例えば「本日から10年間」というように契約日=効力発生日であれば、初日は算入されません。2018年4月1日が契約日であれば、2028年4月1日までになります。一方で、契約日が将来の日付となっている場合は、下記の但し書きが適用され初日も算入されるため、2028年3月31日までになります。
民法第140条
「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」
競業避止義務
このケースであれば、A社が競業避止規定を主張してB社との契約を破棄させようとすることが想定されます。その上で、無効かどうかという議論を経るのが通常です。
A社と話し合いで決着が付かず裁判にもつれこんだ場合、期間・地理的範囲・禁止対象の範囲・今の待遇(競業避止に見合うだけのものか)・今の職務の責任の程度等を総合的に判断して裁決されることになります。上記のようなケースであれば「地理的範囲」に加え、「今の待遇」「責任の程度」等を検証した上で無効を主張することになるでしょう。
一般的には無効とされることが多いと言われていますが、有効・無効の判断基準は抽象的なので、かなり読みにくい案件になってきます。B社との契約前に、A社と結んだ契約書を持って一度専門家にご相談された方が良いかと存じます。
フリーランスとして成長するために
契約一つ取っても様々なリスクがあることがわかっていただけたかと思います。
例えば自動更新の例で言うと、割に合わない安価な仕事を我慢して1年続けたのに、勝手に自動更新されてしまったといったことも起こりえます。競業避止の件では、もし自分だけで「大丈夫だ」と決めつけてB社と契約してしまえば、A社との関係が悪化するだけでなくB社にも迷惑をかける可能性があります。
フリーランスは基本的に自分のスキルのみで仕事を行うため、自ずと受けられる仕事の量には限界が出てきます。売上を伸ばすためだからと値引きや不利な条件での契約を続けてしまうと、生活していくのにギリギリの収入しか無いのに休みは無いという悪循環に陥ってしまいます。
契約する際には、契約によって増える仕事の量等から、金額が適正か検討するとともに、上記に挙げたような契約リスクが潜んでいないかを確認した上で行う必要があります。専門家に依頼するにしても、契約を結ぶ前なら対処出来たものの、契約してしまった以上は履行するしかないといったケースもあるため、出来れば契約前に一度確認してもらうことをおすすめします。
ご自身で契約に詳しくなるための勉強をするというのも一つの道ですが、ご自身の「槍」であるスキルを磨く時間を削るくらいであれば、このような付随的な仕事については専門家に任せた方が長期的には成長につながると個人的には考えています。「甲冑」は買ってくる(=他に任せる)ことが可能です。但し、甲冑を装備せずに戦場に行く傭兵もいませんから、やはり何かしらの手段で法的リスク等の抑制を行い、守りを固めるべきではあります。