働き方改革で有給休暇が義務化?④時季指定のルール
目次
第一回はこちら
前倒しで有給休暇を取得した場合
時季指定した有給の取消は基本的には不可能
厚生労働省の通達は以下のようになっており、何か手当をしていない限りは「指定した日には休ませるしかない」と捉えられそうです。
当初使用者が行った時季指定は、使用者と労働者との間において特段の取決めがない限り、当然に無効とはならない。
厚生労働省 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法関係の解釈について
もちろん、労働者に意見を聴いた上で取り消すことはできるでしょう。ただ、一方的に会社側が取消しを出来るかは疑問です。労働者からしてみれば、その日は休みのつもりで予定を入れてしまう可能性も十分に考えられます。
就業規則に定めておけば取消が可能に
「特段の取り決めがない限り」ということは、逆に「取り決めがあれば取り消せる」とも取れるため、就業規則の適切な見直しなどの手段で対応することは可能と考えられます。どちらにしても労働者の予測可能性の観点からは、就業規則等に時季指定について定めておくのが無難であることは間違いありません。
有給休暇日を後ろ倒しにする場合
前倒し以上にハードルが高い
もちろん、労働者の意見を聴いた上でその意見を基に、後ろにずらすことは問題ないと思われます。問題は、会社が一方的に変更できるかどうかです。前倒しと異なり後ろ倒しの場合、厚生労働省の通達では「特段の取決めがない限り」という例外すら定められていません。
前倒しであれば労働者は事前に有給休暇を取れていますが、後ろ倒しの場合は有給取得前に指定日を変えられてしまうため、労働者の不利益は大きいものと考えられます。
すなわち、時季指定した休暇日を後から会社が自由に変更できるとなると「もしかしたら指定された日が休みにならないかもしれない」という不安から予定が入れられないなどの不利益が起こりえます。
事後的な有給休暇日変更は原則として出来ない
会社が一度承認※した有給を事後的に変更することは原則としてできないと考えられますので、会社が一方的に指定日を変更することも難しいのではないかと考えております。
※法的には不正確な表現ですが、分かりやすさのため敢えて「承認」と表現しています。
就業規則に労働者の不利益を考慮した規定を作ることで指定日を変更することも考えられますが、裁判例が無い現状ではなおリスクは残るでしょう。但し定めが無い限りは、時季指定した有給休暇日の一方的な変更は確実に違法となってしまいますので、万が一のために就業規則に定めておくことには意味があると思います。
どちらにせよ、まずは労働者の理解が得られるように話し合うことが一番重要だと思われます。
労働者からの申出で時季指定をずらせるのか
基本的には一方的な申出による変更は不可
一度指定した以上、労働者が一方的に変更することは出来ないと解されます。
但し、使用者が有給休暇の時季指定を行った後になって、労働者から変更の希望があった場合、使用者は再度意見を聴取し、その意見を尊重することが望ましいとされています。
時季指定の際に双方の合意があったかが重要
労使双方が納得して有給休暇日を決めたのであれば、先述の通り労働者が一方的に変更できないとしても良いと考えます。
但し、制度上、有給休暇の時季指定は「労働者の意見を尊重すること」が前提となっていますので、労働者が反対したにもかかわらず、会社がある種強引に時季指定を行っていた場合には「指定そのもの」が無効となり、労働者が出勤できる可能性はあると考えられます。
有給休暇日に労働者が自主的に出勤した場合
有給扱いで構わない
時季指定が適法であれば、労働が免除されているので帰宅させて構いません。また、労働者が働いたからといって有給休暇が取消しになるわけではなく、時季指定が適法である以上は1日分の有給休暇が消化されることになります。
もちろん、労使間で出勤扱いにして有給休暇を消化しないという処理もできますが、労働者が希望しても応じる義務があるわけではありません。
時季指定が適法だったかの確認が必要
時季指定が違法であれば、理論的には出勤しても咎めることは出来ず、労働者の判断により有給を消化しないという扱いにしても構わないという結論になってしまいます。無理に帰宅させた場合、民法第536条により、有給が減らない上に1日分の賃金を追加で支払う羽目になる可能性も出てきます。
(債務者の危険負担等)
民法第五百三十六条
第五百三十六条 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
一方で仮に時季指定が違法であっても、労働者が出勤しなかった場合には「その日を有給とすることに対して労働者の同意があった」として有給扱いにしてよいと思われます。