KOF98umolのガチャが違法?①オンラインの課金システムと法律
目次
(2018年2月28日追記)
一部箇所のリンク先URLが誤っておりましたので修正いたしました。
でもそういえばそのアプリ、ニュースで見ましたね。
私自身はゲームをやらないのですが、スマホアプリなどでは所謂ガチャと呼ばれるような、大金を課金して強いキャラを獲得し、自分のパーティを強化するシステムがもはや標準的なものとなっています。
先日、「THE KING OF FIGHTERS’98 ULTIMATE MATCH ONLINE」(以下「KOF’98umol」と言います)というオンラインゲームを運営するアワ・パーム・カンパニー・リミテッド(以下「Ourpalm」と言います)が、消費者庁から行政処分を受けました。
アワ・パーム・カンパニー・リミテッドに対する景品表示法に基づく 措置命令について(消費者庁)(PDF)
一体何が問題で、法律的には一体どのように対応しているのでしょうか。私なりに解説したいと思います。
KOF’98umolとは?
The King of Fighters(以下「KOF」と言います)は元々日本のSNKというゲームメーカーが制作している格闘ゲームです。SNKには「餓狼伝説」「龍虎の拳」などの人気ゲームがあり、それらに登場するキャラクターが一堂に会するオールスターゲームとして人気を博し、1994年の「The King of Fighters’94」に始まり2016年にも最新作の「The King of Fighters XIV」がPlayStation4で発売されるなど、今も続くシリーズとしてファンから長く愛されています。
今回問題となったKOF’98umolは先述のOurpalmが制作しており、SNKはノータッチの姿勢(タイトルロゴにはメーカー名が記載されていますが)であることから、Ourpalmがライセンス料を支払い独自で制作しているものと思われます。日本だけでなく、中国版や台湾版、韓国版や英語版も配信されています。
従来のKOFと異なり、ガチャで獲得したキャラクター(格闘家)を育成しパーティを組み、コンピュータや他のユーザと闘うといった、育成要素の強いコンテンツとなっています。
クーラガチャの問題点
実際よりも確率が高く見せることはダメ
KOF’98umolの場合、「クーラ」というキャラクターのガチャについて、画面上には「出現確率:3%」とご丁寧に(※)書かれていました。しかしながら、実際はその10分の1である0.3%程度の排出率であるにもかかわらず、あたかも3%の確率で出現するかのように装ったことから、有利誤認表示として違法とされました。
※事務局注:JOGA(日本オンラインゲーム協会)のガイドラインにおいて確率表記の定めがあるため、これを形式上守っているものと思われます。実際は守られていなかった(正しい数値が表示されていなかった)ので問題になったわけですが・・・
3. 有料ガチャの設定に関する事項
(1)有料ガチャにおいてガチャレアアイテムを提供する場合、以下のいずれかを遵守するものとする。
□ a. いずれかのガチャレアアイテムを取得するまでの推定金額(その設定された提供割合から期待値として算定され る金額をいう)の上限は、有料ガチャ1回あたりの課金額の 100 倍以内とし、当該上限を超える場合、ガチャページにその推定金額または倍率を表示する。
□ b. いずれかのガチャレアアイテムを取得するまでの推定金額の上限は 50,000 円以内とし、当該上限を超える場合、ガチャページにその推定金額を表示する。
□ c. ガチャレアアイテムの提供割合の上限と下限を表示する。
□ d. ガチャアイテムの種別毎に、その提供割合を表示する。
景品表示法とは?
不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」と言います。)
(不当な表示の禁止)
第5条第2号
商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
とされており、本件では、「実際のもの・・・よりも相手方に『著しく』有利であると一般消費者に誤認される表示」とされたと解されます。
本件では、30回ちょっとやれば1回は出る、というのと、300回以上やらないと出ないというのでは、課金するかどうかの判断においてかなり印象が違うのではないでしょうか。10万円以上かけないと出ないとなると諦めもつきますが、3%ならもしかしたら5回くらいでも出るかもしれないという期待を抱く人はたくさんいたでしょう。だからこそ課金したのに、という消費者の気持ちを考えれば騙されたと思って当然だと思います。
景品表示法は何を規制するもの?
景品表示法は本来、公正な競争は顧客が正しい商品情報を受けて、正確、冷静に判断するという過程を通じて実現されるべきだという価値判断から設けられた法理です。事業の世界では、広告において多少の誇張は大目に見てもらえるというのが暗黙の了解となっていますが、顧客獲得のために手段を選ばず広告その他の行動に出た結果、一般消費者の選択に影響を与えてしまった場合には、競争に悪影響を及ぼすためそれはさすがに規制しよう、というのが法の趣旨です。
消費者は、事業者が情報を開示してくれなければその商品の特徴が分からないのが通常です。そこで嘘をつかれると、消費者としては買って実際に使ってみるまで、その商品の特徴が分からないのです。こういった情報格差を是正するために、事業者側を取り締まり消費者を出来る限り事業者と対等な地位まで押し上げることが目指されているのです。
そして「誤認」は、一応の常識を有する者を基準として客観的に誤認させる行為があれば足り、実際に誤認があったことは要しないとされています。すなわち、ほとんど誰も見ないような場所に書かれていることでも、仮に見た人がいて、誤認の可能性があるのであれば成立し得ることになりますし、逆に誰の目から見ても嘘だと分かるものは対象にならないということです。(例えばタイムマシーンや不老不死の薬など。そのうち実現すると嬉しいですが・・・)
優良誤認表示と有利誤認表示
景品表示法をみると、以下の二つの条文が存在することが分かります。
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
第1号を優良誤認表示、第2号を有利誤認表示と一般的には表現しますが、KOFの件は有利誤認表示とされています。消費者庁の言葉を借りれば、「良いものですよ」と訴える表示をしているにもかかわらず、実際には表示されているほど良いものではない場合は優良誤認表示、「お得ですよ」と訴える表示をしているにもかかわらず、実際には表示されているほどお得ではない場合は有利誤認表示とされています。
参考:メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について(平成 26 年3月 28 日消費者庁)(PDF)
イメージとしては、優良誤認表示は商品やサービスの効能、有利誤認表示は価格や数量、確率といった数字に関しての規制と思っていただければ、おおよそ外れではないでしょう。そしてKOFでは、確率という「数字」に関するものなので、有利誤認表示とされたと考えられます。
加えて申しますと、商品選択上の重要な情報について有利な点を強調する一方で、不利な点を隠したり表示しなかったり、見づらくすることによって、一般消費者に誤認されるような場合についても、場合によっては景品表示法に反することとなります。例えば「返品可!」とだけ書かれており、実は本日中でなければ不可という条件を書かなかったり、小さい文字で隅っこに書いたりといったケースが想定されます。消費者からすれば、返品できるという点を強調され、なら買ってもいいかなと思って買ったはいいものの実は返品できないのであれば、消費者に誤解を与えかねず、やはり問題だと考えられるからです。このように、効能や価格以外のものについて誤認表示をした場合も、場合によっては対象になるのです。
「著しく」とは?
ただ、「著しく」というのが厄介で、明確な基準があるわけではないので、どれだけの誤差であればいいのかが問題になってきますが、わざわざ「著しく」という修飾語を付けた意図を考えると、「それだったら買わなかったよ」となる程度には事実と異なる必要があろうかと思います。じゃあ2%ならどうなのか、1%ならどうなのか、何%まではセーフでそれ以上はアウトなのか、という議論はなかなか難しく、世の中の広告には「ほんまかいな」と思う内容も良く目にしますが、どこからがアウトなのかは線引きが割と難しいところではあります。
さすがにそこまで言うと嘘じゃない?というレベルなら、違法だというのは分かりますし、KOFのように数字が明らかに異なるというのはまだ分かりやすい方ですが、例えば抽象的な美辞麗句が並び、具体的な記載がない場合には、主観的な要素も入ってきてしまうので、規制が難しい部分もあります。消費者庁が規制している事例についても、効能のうち客観的に判断可能なものに限られており、主観的な要素が入るものについては、取り締まりが難しいと考えているのではないかと推測されます。(消費者庁の担当者ごとに結論が変わってしまったら問題でしょうし)
例えば、KOF’98umolでも、「このキャラは強い!」と書かれていて、実際使ってみたら弱かった場合に、育成が不十分なのか、はたまたそもそも弱いとはなんぞや、何をもって強いのか、見解が様々分かれ得るところだと思います。実際、使ってみないと分からない部分もありますし、キャラクターの存在意義を見出すのはプレーヤー自身であり、ゲームをしていく中でプレーヤー同士で議論していくものだとすれば、このようなケースは法による規制が馴染まない気もしています。
次回は、有利誤認表示につられて大金をつぎ込んでしまった場合に、返金や損害賠償ができるのか、はたまた、誤認表示はないものの、そもそも当たりが設定されていなかったり、非常に低確率に設定されていた場合はどうなるのかについて、検討しようと思います。
毎回ブログが長くなってしまうので、更新の気力を維持するためにも、いったんここで休憩させてください。