法人における適法な倒産と違法な倒産や詐欺の境目とは?
あれ!!!
事務局のお怒りもごもっともなこのニュース。先日社長が初めて会見の場に姿を見せました。
(以下引用)
はれのひ社長「成人式台無しに」 トラブル後、初会見
振り袖販売・レンタル業「はれのひ」(横浜市)が突然営業を取りやめた問題で、横浜地裁は26日、同社の破産手続き開始を決定した。同社の篠崎洋一郎社長(55)は26日午後、横浜市内で会見し「成人式を台無しにしてしまった」と謝罪した。篠崎社長が公の場に姿を見せたのは成人の日の1月8日に問題が発覚して以来初めて。破産申立代理人によると、負債総額は約6億3500万円、債権者は約1600人。最終的な負債額は10億円に膨らむ可能性があるという。6月にも債権者説明会が開かれる見通し。
(日本経済新聞電子版 2018/1/26の記事から抜粋) 引用元
今回は特にひどいケースではありますが、経営者であれば経営破たんのリスクは常に背負っているものです。経営に窮した場合どうすれば良いのかを踏まえつつ解説いたします。
※ 法人の破産手続きの流れについては当事務所ホームページもご覧ください。
倒産を先延ばしにするリスク
経営されている方は、常に資金繰りに頭を悩ませながら、「来月はどうなっているのだろうか」「来週はどうなるのか」「明日も会社を維持できるのだろうか」そんな不安を抱えて経営をされているのだろうと思います(私自身もそうですから・・・)
一方で、会社を何とか存続させるために、資金繰りが切羽詰まっていながらも、融資を受けられるだけ受け、最後には力尽きて法人破産という道を選ぶケースが非常に多いです。自分で立ち上げた会社だからすぐに手放せない気持ち、もしかしたら事態が好転するのではないかという期待、そういった心情だと推測いたします。しかしながら、気づいた時には、負債が何倍にも膨らみ、従業員の退職金も払えず、倒産するにもその費用も用意できないとなってしまうと、打つ手がないという状況に陥ってしまう可能性もあるのです。
また、場合によってですが、役員が責任追及されたり、返すつもりも見込みもないのに融資を受けたとして、詐欺罪に問われる可能性もあるため、法は適切な時期に倒産すべきことを要求していると取ることもできます。
資金繰りに窮したときに、どうすべきかという点について、具体例を挙げながら説明をしていきたいと思います。
倒産が詐欺事件に発展するケースも
冒頭にあった振り袖販売・レンタル業「はれのひ」の倒産以外にも、2017年3月には旅行会社「てるみくらぶ」の倒産が世間を騒がせました。
(以下引用)
てるみくらぶ、破産手続き開始決定 負債151億円
旅行会社の「てるみくらぶ」(東京)主催のツアーであった航空券の発券トラブルを巡り、同社は27日、東京地裁に自己破産を申請し破産手続き開始の決定を受けたと発表した。負債額は約151億円。代金を支払い済みの顧客は8万~9万人で、旅行が中止に追い込まれる可能性がある。同社は日本旅行業協会(同)と返金手続きを協議するが、大半が返還されない見通しという。
同社の山田千賀子社長によると、一昨年春から新聞などへの広告費がかさみ経営が悪化。各国の航空会社などで構成される国際航空運送協会への航空券購入代金の支払いが期日の3月23日にできなかったという。
(日本経済新聞電子版 2017/3/27の記事から抜粋) 引用元
また「てるみくらぶ」については、社長が粉飾決算による融資を受けたなどとして詐欺罪で何度も逮捕されており、資産隠しの疑いも持たれています。後者については、裁判で有罪が確定したわけではないので真実は不明ですし、「はれのひ」もまだ手続が開始したばかりですので、両者ともに今後の動向に注目していきたいと思います。
このように、倒産は、時には刑事事件にもなってしまうのですが、一体どうしてなのでしょう。
粉飾決算は一発アウト
粉飾決算は東芝の件でも問題になりましたが、発覚した場合には一気に倒産リスクが高まり、役員への厳しい責任追及もなされるなど、ハイリスクなものです。ほとんどの場合は、銀行の追加融資、会社の信用上昇や株価の操作、株主からの資金調達を目論み、業績を良く見せるケースです。配当資金が無いにもかかわらず、配当資金を捻出するため粉飾決算するケースもあります。実際には資金が無いにもかかわらず業績を良く見せることは、発覚した場合は相手を騙して資金や利益を得ていることになるため、詐欺罪として立件される可能性が非常に高まります。「てるみくらぶ」は実際にその疑いで逮捕されています。
その他にも下記の通り、粉飾決算は多大なリスクを伴います。
刑事責任
違法配当罪(会社法第963条第5項第2項)
粉飾決算により剰余金を作り出し、本来は不可能な配当を行った取締役は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金、又は両方が科されます。
特別背任罪(会社法第960条)
役員が粉飾決算により自己又は第三者の利益を図りその任務に違背して会社に損害を与えた場合は、10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金、又は両方が科されます。
有価証券報告書虚偽記載罪(金融商品取引法第197条)
上場会社等では、有価証券報告書の重要な事項に虚偽の記載をして提出した場合には、10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金、又は両方が科されます。
銀行に対する詐欺罪(刑法246条)
銀行から融資を受ける際に粉飾決算した決算書を提出すると、詐欺罪(10年以下の懲役)となることがあるのは、上述した通りです。
最高刑が10年であり罰金額も多く、会社の破産の場合、制裁の程度は重くなっています。
民事責任
剰余金の配当等に関する責任(会社法第462条)
取締役が粉飾決算により違法に利益配当を行った場合には、原則として、会社に配当相当額について賠償義務を負います。
役員等の第三者に対する損害賠償責任(会社法第429条第2項第1号ロ)
取締役が計算書類等の重要事項に虚偽の記載をし、第三者に損害を生じた場合には、役員はこの第三者に対して損害賠償責任を負います。
虚偽記載のある有価証券報告書の提出会社の役員等の賠償責任(金融商品取引法第24条の4)
上場会社等では、取締役が有価証券報告書の重要な事項に虚偽の記載等をし、これを知らないで有価証券を取得した者に損害を生じた場合には、損害賠償責任を生じます。
債権者からの損害賠償請求(会社法第429条)
会社が倒産した場合、その経営に問題があったことにより債権の回収が困難となった場合には、役員は債権者に対して損害賠償責任を負う場合があります。
資金状況が悪くなったら・・・
会社は誰のものか
法の観念上は会社は「株主のために存在する」
まず、会社は誰のためにあるものでしょうか。法律上は、株主の利益を最大化することが役員の義務であり責任であると言われることもあるように、法の観念上は株主のために存在するとされています。中小企業においては、代表取締役=100%株主というケースも多いでしょうから、自分のために経営しているということになりそうです。
一方で破産法においては、労働者の未払賃金等の権利を優先的に弁済する仕組みとなっており、労働基準法においても賃金規制は厳格なものがあり、会社経営上労働者の保護も非常に重要です。事実、従業員や取引先など会社の発展に寄与してきた方に迷惑をかけないように、なんとか金策を練ろうとして立て直そうとしたが叶わなかった・・・いよいよ従業員の給料を払えなくなり力尽きたというケースを何度も見てきています。取引先の関係者や自社の従業員にも生活があり、自分のわがままだけで倒産をするわけにはいかない、そんな心理が見え隠れします。
しかし、いわゆる放漫経営と言って、何のあてもないのに借金を膨らませて倒産してしまうと、債権者や取引先から、損害賠償請求を受けるおそれがあるのです。
株主を最優先すべきではないのか
立ち止まって考えると、疑問に思わないでしょうか。法の趣旨からすれば会社は本来株主のために経営するものであり、1%の成功見込みがあれば、資金をつぎ込んで経営回復に賭けるのが株主のためになるのではないか、株主は出資額以上の責任を負わないのですから、元々無価値の会社である場合、99%の失敗が見えていても株主の損害は変わりません。しかし、1%の確率で成功し経営を立て直せれば、株主にとっては紙切れ同然だった株式に価値が吹き込まれるのです。だとすれば、もはや打つ手なしというところまで経営すべきではないのか、こういった価値判断もありうると思います。
一方で債権者からすれば、そんな見込みのない事業計画によって資産を溶かすくらいであれば、現状の資産を支払に充てて欲しいと思うでしょう。債権者からすれば、事業の成功ではなく債権が回収できるかどうかに興味があるのであり、リスクの大きい経営により自分以外の債権者が増え、資産も減り、自分への配当可能性が減るような経営は望まないでしょう。
債権者の意向を考慮する必要は無いのか
このように、株主と債権者は利害関係が対立するのが通常です。債権者が債権を回収すれば会社の資産は減るのですから。では、そのような債権者の期待はまったく考慮しなくて良いのでしょうか。
論者によって説明の仕方は様々ですが、一般的に経営状態が悪化した会社は一か八かの経営に走りやすいこと(失敗したら倒産すればよい)、営業を継続すれば取締役への報酬等の支払で財務状況が更に悪化する可能性が高いことなどから、債権者の損害拡大を防止するために取締役には再建可能性・倒産処理などを検討すべき義務があるとされています。
したがって、いたずらに延命措置を図ろうとすると役員も責任追及される可能性があるのです。代表取締役自身は個人保証をしているため、会社が倒産すれば自らも自己破産しなければならないケースが大半でしょうが、他の役員はそうとは限りません。結局は役員の責任において会社の経営は成り立っているとも言えるでしょう。延命措置の結果、自らの首を絞めかねないのです。
資金繰りが悪化したらすぐ倒産しなければならないのか
役員への責任追及がなされる可能性
延命措置が全く認められないわけではなく、むしろ役員の責任追及がなされるのは稀です。詐欺的な経営により、取引先や銀行に多大なる損害や迷惑を与えたときに限られるのが、私の実感です。
最初に述べた通り、経営陣としてはいざ資金繰りが悪化した際には、すぐに諦められない心情自体は理解できるものですし、資金繰りの悪化自体、役員を責められないケースも多いのが現状です。実際に責任追及されるのは、会社の資産に見合わない高い役員報酬を垂れ流し経営を悪化させた場合や詐欺的な出資をした場合など、例外的な場合に限られるでしょう。
どうにかなるかもしれないと思って融資を受けたがやっぱりダメだったとして、うまくいかなかったから責任を取れと言われれば、むしろ役員の意思決定を委縮させるだけであり、期待値的に勝負に行くべき事業でも勝負に出られなくなります。何よりそれは結果責任であり、損をしたから損失を埋めろと証券会社に文句を言う投資家と同じです。
経営判断の原則
このように、経営陣の判断をまずは尊重することを「経営判断の原則」と言います。裁判所は経営に関しては専門家ではありませんし、当時の経営状況を最も知っているのは他の誰でもない会社の経営陣です。事後的に色々な資料を見て、この事業計画は不適切だったと言うことは簡単ですが、限られた時間と資料の中で未来を予測して経営するわけですから、不確実な要素はどうしても付きまとうのです。
したがって、まずは会社のことを最もよく知っている経営陣の判断を尊重しよう、但し当時、他の目から見ても不合理な内容であればさすがにそれは責任を負ってもらおう、というのが裁判実務となっています。
もっとも、多数の取引先を抱え、従業員への未払給料もあるような場合は破産にかかる費用が高額になる傾向にあり、力尽きた頃にはもはや破産手続すらとれないということにもなりかねないため、少なくとも破産にかかる費用程度は残しておかれることをお勧めいたします。(目安ですが、最低でも100万円程度はかかると思った方がいいでしょう)
どういう場合に詐欺になるのか
サービスが提供出来ないのがわかっていたのであれば詐欺では?
粉飾決算の場合には詐欺罪等の刑事事件になるというのは先ほども説明いたしましたが、それ以外の場合には犯罪は成立しないのでしょうか。
「はれのひ」や「てるみくらぶ」の場合、もはやサービスの提供が困難だと認識できたのであれば、その時点で新規顧客を集うべきではなかったのではないか、サービスができないのにお金だけとるのは詐欺ではないか、それが今回の出発点です。
詐欺罪は、刑法第246条に規定されています。
刑法第246条
(詐欺)
第二四六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
法律用語としては「欺く」ですが、刑法上は一体どういった場合に人を騙したことになるのでしょうか。
騙すというニュアンスからも分かるように、真実とは違うことを伝えてそう思い込ませたことが必要です。そして、本人に騙していることを認識している必要があります。(言い間違いの場合に詐欺罪が成立しないのは、本人の認識が欠けるからです)
真実と違うことを伝えることの認識とは、分かりやすいようで分かりにくいのです。本人はそうだと思っていても、他人からしたら違うとしたらどうでしょうか。また、実現困難ではあることは認識しつつも、その可能性がゼロではない場合はどうでしょうか。このように、事実と言っても評価を含むことはしばしばあります。
倒産の場合の「詐欺」
倒産についていえば、「再建手段はどのようなものがあったのか」「その実現確率はどの程度だったのか」「失敗した場合のリスクはどのようなものだったのか」「成功した場合のリターンはどうだったのか」、そして調達した資金を何に使ったのか、そういった諸々の事情を加味して判断しなければなりません。
一般的な倒産の場合、最後まで何とか立て直そうと思ってやってきたが倒産せざるを得なくなったケースが大半であり、その実現可能性はさておき、少なくとも返すつもりで借りていたことを捉えれば、詐欺罪が適用されるケースはほぼないのではないかと考えています。
銀行は経営状態を分かった上で貸しているわけですからそもそも騙されていませんし、取引先についても、別に取引先の商品を踏み倒して持ち逃げしようとしているわけではありませんから。また一般的に、資金繰りの悪化した会社は、その状況を気づかれると取引に応じてもらえなくなるため、積極的に言うことは出来ないという心理状況も相まって、資金状況の悪化に関しては口をつむぎ、平常通り経営できているように振る舞ったからといって即座に詐欺罪とするのは、商慣習上は困難でしょう。
もちろん、粉飾決算をするなどし、踏み倒す気満々で取引している場合には、詐欺罪に当たることは言うまでもありませんが、そのような意図がなく、金策に走ったものの成果が出なかったという場合には、危機的状況下での融資や取引について詐欺罪は成立しないと考えられるでしょう。
「はれのひ」は詐欺になるのか
「はれのひ」については、融資やM&A、債務の圧縮について仮に交渉していたのであれば詐欺罪としての立件は困難でしょう。(逆に言えば、これが嘘であれば、詐欺罪ではないかという疑念が世論から出そうではありますが・・・)
例えば、M&Aによって新企業に事業が移転すれば、通常通り振袖の貸出はできたでしょうし、融資を受けられればとりあえず今年の成人式は乗り切れた可能性が高いでしょう。それによって、個人のお客様が債権者から外れることにより、債務圧縮にもつながります。
要するに、資金繰りを解消する策を講じていたが、それが上手く行かなかったという場合には詐欺罪は成立せず、資金繰りの解消策がもはや現実的でないと会社が認識していた場合には詐欺罪に問える可能性は出てくるのだろうと思います。他方、顧客への対応が遅れてしまったことについては、先ほど述べた通り、不安を煽ることによって営業に支障が出ると考えたのであれば、報告が遅れたことや振袖サービスを受け付け続けたとしても、ただちに会社側に責任があるとは言えないことになります。ここらへんが、司法の判断と、消費者や国民の感覚との間のズレなのかもしれません。
マイナスな事実を抱え込むのは危険
お客さんからしたら、お金を払った直後に、お金が無いのでサービスは出来ませんと言われれば納得できないのは当然であり、「てるみくらぶ」や「はれのひ」は代金が高額なことや顧客が一般消費者であり多数にわたることも相まって、社会問題にまで発展したのでしょう。
「はれのひ」は成人式が書き入れ時であることは間違いなく、「てるみくらぶ」も卒業旅行シーズンであったことから、意図的だったのではないかという評価も出来るかもしれません。どちらにしても、このような不祥事や経営悪化など、企業にとってマイナスな事実を公表するタイミングというのは難しく、一つ間違えると大きな社会問題になってしまうのです。今回に限らず、一つの小さな違法が、少しずつ積み重なり、やがては取り返しのつかない大きな法律問題となり、倒産へと追い込まれるケースは後を絶ちません。日ごろからコンプライアンスには十分に気を付けて、経営されることをお勧めいたします。
新しく写真を撮ってもらおうか考え中です。