自動運転技術の提供を阻む法律問題
目次
「自動運転」という文言が新聞やニュースで良く聞かれるようになりました。実現すれば運転ミスによる事故や、運転手の過労を防ぐことにもつながり、非常に有用だと思いますが、いざ世に出すとなるとどのような流れになるのでしょうか。今回は自動運転技術を持った会社の目線で、時系列に沿って考えてみました。もっと細かく議論されておりますが、今回は概略だけ説明させていただきます。細かい部分については、ご依頼いただければお仕事を一緒にしていく中で説明差し上げたいと思います。
ビジネスモデルの適法性チェック
例えば、自動運転のAIを作る技術を持った会社を例に挙げてみましょう。
今回はタクシー業界と手を組んで無人タクシー事業を創めるという事例です。
タクシー業界も人手不足が進行しており、アイデアとしては良いと思います。但し、適法性という観点から気をつけなければならないポイントがいくつかあります。
ジュネーブ条約
「ジュネーブ条約」と聞くと歴史の教科書で学んだものを思い出すかもしれませんが、ここでは「ジュネーブ道路交通条約」と呼ばれる「道路交通に関する条約」を指しています。
その第8条1項には以下のような定めがあります。
一単位として運行されている車両、または連結車両には、それぞれ運転者がいなければいけない。
上記から、タクシー以前に、自動運転車自体が公道を走行して良いかという議論がまず起こります。政府や省庁も自動運転を推進したい考えもあり、独自解釈等により日本国内での走行を可能にする議論は進みつつありますが、このようなビジネスモデルを展開するのであれば知っておくべき情報ではあります。
自動車運転には運転者が必要
日本においては、公道における自動車には運転者がいることが前提となっています。道路交通法第70条によれば
(安全運転の義務)
第七〇条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
と定められており、道路交通法第70条に違反した場合
第一一九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
九 第七十条(安全運転の義務)の規定に違反した者
2 過失により前項第一号の二、第二号(第四十三条後段に係る部分を除く。)、第五号、第九号又は第十二号の三の罪を犯した者は、十万円以下の罰金に処する。
と、3か月以下の懲役又は500万円以下の罰金刑が科されるため、運転者がいることが自動車運転の前提となっているのです。また、警察庁の「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」によれば、自動運転においても人が運転席に乗り、常に周囲の状況を監視し緊急時には安全確保のための操作を行うことを要求しており、完全な自動走行システムは違法であることを示唆しています。
普通第二種免許
タクシーを運転するには普通第二種免許が必要であると、道路交通法第八十六条に定められています。
道路交通法第八十六条第一項
次の表の上欄に掲げる自動車で旅客自動車であるものを旅客自動車運送事業に係る旅客を運送する目的で運転しようとする者は、当該自動車の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる第二種免許を受けなければならない。
これについても現在議論が進んでおりますが、少なくとも今(2018年1月)時点では勝手に自動運転タクシーを事業として行うことは出来なくなっています。
内閣に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部という組織が設置されており、そこで議論が進められています。こういった情報を集めて、解禁のタイミングに迅速に対応出来るよう準備をする、もしくは直接組織やその関係者に対しコンタクトを取るといった打ち手を提案することになります。
契約書のチェックと作成
では、仮に自動運転タクシーが公道を走ることが出来るようになったとして、次にどんな障壁があるでしょう。
技術力を強みとしている企業にとって、技術の漏えい・流出は命取りになってしまいます。その予防のための法的手段として、NDAと呼ばれる「秘密保持契約」を締結することが挙げられます。
秘密保持契約
秘密保持契約は、取引の過程で知った相手方の営業秘密や個人情報等について、取引の目的以外での使用を禁じる契約のことです。
今回のようなケースでは当然結ぶことが望ましいのですが、ただ契約を結べば良いわけではありません。「どのような情報を守るのか」「営業秘密はどこまでが対象となるのか」「期間はいつまでと定めるのか」など、契約毎に整理を考える必要があります。
特にIoTなど、新たな技術を形にする際には大企業の協力をあおぐことも多いかと思いますが、相手は法務部を備えていたり、顧問弁護士を複数抱えていたりと、契約に関してはプロだという場合が多々あります。その中で、渡された秘密保持契約の中身を精査することなく判子を押してしまうと、自社が守りたかった技術に関する情報が秘密保持の範囲に含まれていないなど、不利益を被るリスクがありますので、契約書のチェックを含め専門家のサポートを得ることが大事になってきます。
利用規約のチェックや作成
企業間での関係が上手く構築出来れば、次は実際に自動運転サービスを利用するお客様との関係を考えなければなりません。(今回のケースであればタクシー会社がユーザーとなるでしょうか)
こちらの予期しない操作等により自動運転車が故障した、あるいは物損・人身事故を起こしてしまった場合、どこまで責任を負うべきなのでしょうか。また、メーカー側とユーザー側でどのように解決していくべきなのでしょうか。利用規約を軽視していると思わぬ事故によってメーカー自らが紛争の当事者となり、場合によっては損害賠償を行うことになってしまうかもしれません。
利用規約の内容
自動運転車の利用規約についても、一般的な利用規約を基盤に考えることにはなりますが、メーカーとユーザー以外に事故の被害者も当事者になりうることから、第三者が想定されるものになります。従ってあらかじめ、第三者からメーカーが損害賠償を請求された場合に、メーカーからユーザーへの求償が可能なのはどのような時か、逆にユーザーからメーカーへ損害賠償請求がなされた場合に免責となるのはどのような時か、などを明記しておくことも重要な視点となってきます。
また、ユーザーの利用需要等を分析し新たな市場を開拓するために、例えば自動運転車の走行経路や乗車したお客様の顔の映った画像データ等のビッグデータを利用する場合などは、個人情報を集積したデータを扱うこととなり、その匿名化の方法や利用方法の制限、第三者提供の際の注意点などについて、利用規約を定めておくことは十分に考えられるでしょう。
提供の際にあらかじめ利用規約に同意してもらうことにより、個人情報を適法に扱える場面が増えることとなり(全面的に適法になるわけではないので、個人情報は慎重に取って下さい)、メーカーの予期しない操作等により損害が生じた場合の責任の所在についてリスクヘッジが可能になります。
企業と個人の契約の場合(消費者契約法)
今回のようなケースでは対象となりませんが、個人のお客様が自動運転技術を使用されるなど、企業と個人(事業者としての契約は除く)との間の契約になる場合は、「不具合があった場合、当社は責任を負いません。」といった内容は消費者契約法第8条により無効になります。
消費者契約法第8条
次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
(以下省略)
このように、法律に反しないかを確認しつつ、ユーザと企業がともに安心できる利用規約を作成する必要があります。IoTのサービスなど、前例の少ないものであれば尚のこと利用規約の作成には注意を払う必要があります。
次世代技術の実現には専門家の協力が重要
特に、IoTやAIのような次世代技術が絡む分野は専門家でも判断が難しい場面が多いですので、こういった技術の活用を検討されている方は出来るだけ早めにリーガルリスクの相談を行うことが望ましいです。
宣伝になってしまいますが、当事務所でもIoTやAI関連のお客様向けの顧問契約を取り扱っておりますので、一度該当ページをご覧いただければ幸いです。