労働契約

採用

就業規則

社会保険

労働時間

 

労働契約

企業担当者Aさん
うちのスタッフとは業務委託契約を結んでいるので、雇用関係は気にしなくて良いですよね?

企業担当者Bさん
全員役員なので労働者はいませんし、大丈夫ですよね?

契約書の名称や書き方で「労働契約」かどうか決まるわけではなく、勤務実態によって客観的に決まります。

そして「労働契約」とは、
①労働者が使用者の指揮監督のもと働くこと
②使用者が賃金を支払うこと
について労使間で合意した場合に成立します。
①が特に法律上問題となり、勤務実態によっては労働契約となるケースが実はよくあります。

労働法に違反するリスク

「社会保険料を払う資金力がない」「残業代を支払う資金力がない」「業績が傾いた時にすぐに解雇できるようにするため」等様々な思惑から、労働契約としてしまって経営が立ち行かなくなることを危惧するお気持ちはよく分かります。しかしながら、規制を免れようとしても人を雇う以上、そして人の生活を保障する立場にある以上は、使用者の自由は強く制限されるのが現在の法制度となっているのです。

労働法が適用されることが判明した場合には、莫大な賠償や賃金・社会保険料の支払に追われる可能性もあります。このように、人を雇うというのは一気に倒産に追い込まれる危険性をはらんでおり、入念な準備が必要なのです。

役員とした場合はどうなるか

また、役員とした場合には、会社法に則り多大な権限が付与されます。最悪、会社が乗っ取られたり、自分の思惑通りに経営ができなくなったりする可能性があり、そうまでして労働法の規制を免れる意味や必要性があるのか、よく考える必要があります。

 

いずれにしても、お金を惜しんで経営自体が立ち行かなくなっては本末転倒です。適切な労務管理をして、事前に経営リスクや負担を見通しておくべきでしょう。

採用

企業担当者Cさん
新しく人を雇おうと思って内定を出したものの、会社の経営が苦しくなり内定を取り消したいと思っています。

一度内定を出すと、内定取消は難しくなります。勤務開始日がまだ先であっても、一般的には内定通知により労働契約が成立し、法的に効果が発生することになります。

一度労働契約が成立すると、「解雇権濫用法理」という法理論が適用され、「目的に照らして客観的に合理的であり、社会通念上相当である場合」を除き、内定を取り消すことが出来ません。

内定を取り消す場合

もっとも、実際に勤務を開始しているわけではないので、勤務開始後の解雇に比べれば内定取消の方がいくぶん適法になりやすい実態があることは確かです。但し、単に経営が傾いてきたから、というだけでは足りず、相手方や裁判所を納得させられるだけの説明を事前及び事後に尽くしたか、ほかに手段はなかったか等、現状ではかなり厳しく審査されます。

事前に内定の取消事由を採用通知書に明確に記載しておく、会社の状況等についてもある程度は説明しておくといったことが、紛争予防につながることになります。

その他の採用トラブル

また、よくトラブルになるのが、募集要項と実際の勤務条件が異なるというものです。実は、労働契約締結時までに労働条件を通知する必要があり、また、就業規則を定めている場合には、労働者に周知する義務があります。

別途労働条件通知書を作成する会社もありますが、実際は、雇用契約を交わす際に雇用契約書と就業規則も渡すケースが多いようです。但し、記載漏れがある場合には労働基準法に違反することになりますので、要件を満たしているかのチェックはしておいた方が良いでしょう。また、労働紛争を防ぐ意味でも、労働契約の内容は事前に明らかにしておくべきです。

就業規則

企業担当者Dさん
就業規則って作らないとダメですか?作成の要領もよく分からないし、時間もかかりそうなので・・・

常時10人以上の労働者を使用する時は、就業規則を作成し所轄の労基署に届け出なければなりません。また、労働者に周知して初めて効力を有しますので、こっそり作成しただけでは意味がなく、「見やすい場所に掲示する」「就業規則を印刷した書面を交付する」等をしなければなりません。

常時10人以上というのは、10人以上の労働者が所属するに至った時と考えることになります。例えば、に一時的に雇い入れた助っ人のような方の場合は人数にカウントされませんが、パートやアルバイトであっても人数にカウントされますので気を付けてください。

就業規則は全員に適用されなければならない

また、パート等を含めた全員に対して就業規則を用意する必要があるので、正社員のみに適用される就業規則のみを完備しても不足であり、全社員に適用される就業規則を別途作成するか、またはパートタイマーやアルバイトについての就業規則を別途用意することになります。

企業単位で判断するのではなく、事業場ごと(営業所ごと、等)に判断するので、事業場が10人未満であればその事業場においては就業規則を作成する必要はありません。一方、10人以上の営業所が複数存在するに至った時は、各々の就業規則を作成する必要があります。

例えば、本社で一括して就業規則を作成したとしても、10人を超える労働者のいる支社があれば、支社を所轄する労働局にも本社用の就業規則を届け出る必要が出てきます。本社で一括して各営業所分を届け出ることはできますが、所定の届出方法による必要があります。一括届出によって解決する方法もありますが、必要書類が多岐に渡り手続きが複雑になるので、十分留意する必要があります。

届出に必要な書類等

なお、常時10人以上の労働者を使用する時は、労基署へ届け出る必要があり、労働者の過半数となる代表者の意見書等、就業規則以外の書類も必要となってきます。裏を返せば、常時10人未満の労働者しか使用しない場合は、就業規則の作成義務はありません。しかしながら、就業規則に定めない限り効果の生じないものもありますし(懲戒解雇など)、労働者が増えてきてから就業規則を作成するとなると、労働者にとって不利な就業規則を定めることが難しくなり、結果的に経営を圧迫することもあります。

 

面倒だから後で、ではなく時間がある時にゆっくり考え、その後の運用の中で適宜就業規則の内容を見直すという方が労務管理上の観点からは望ましいといえます。ただ一点注意すべきなのは、不利益変更は認められにくい傾向にあることです。就業規則はあくまで最低限の保障であり、労働者によって就業規則よりも有利な労働契約を締結することは適法ですので、最初は、今後会社で起こりうる労務トラブルを想定し、会社の権限を最大限保障できるような内容としつつ、段階的に見直す方向で考えた方が良いでしょう。


企業担当者Eさん
こういう制度を作りたいのですが、どうしたらいいですか?

昨今、多様な労務制度を採り入れる企業が増えてきています。フレックスタイムや裁量労働制、出向等、様々な制度が労働法上用意されています。しかしながら、制度を導入する場合には就業規則に定める必要があることが多く、また、労使協定という労使間で締結する書面の作成が必要になってくる場合もあります。

新しく就業規則に制度を設ける場合、就業規則の変更となるため変更に必要な手続もとらなければなりません。また、労働者に影響を与えることにもなるので、労働者に説明をし同意を求めることが紛争防止につながります。

就業規則と同意の関係

本来は同意までは求められていないのですが、同意なき就業規則の変更は、厳しい要件のもと認められるに過ぎないので、事後的に無効だと主張されるケースもあります。もっとも、労働者に有利に変更する場合には同意がいただけるケースが多いと考えられますし、就業規則の変更に制限がかかるのは不利益変更の場合に限られます。(但し、不利益性は広く認められているので、安易に大丈夫だと考えると思わぬ落とし穴があります)

 

労働法制はめまぐるしく変化します。作った当初は適法でも、その後の法改正によって違法になるケースはしばしばあります。半年に一回程度は、専門家に就業規則を確認してもらい、違法部分があれば、適宜変更していくことをお勧めいたします。

社会保険

企業担当者Eさん
社会保険の負担が重いから、軌道に乗るまでは払いたくないです。

人を雇う際、賃金支払以外にも、労働保険(雇用保険、労災保険)や社会保険(健康保険、厚生年金)が、使用者にとって負担となります。厚生年金と健康保険は、特に負担になる傾向があり、避けたがる使用者もいるのが実情です。

だからこそ、業務委託という形式にして社会保険の負担を免れようとする使用者が後を絶ちません。もちろん、業務委託にふさわしい形態で人を使用しているのであれば問題ないのですが、得てしてそういう場合に限って労働契約と何一つ変わらない場合がほとんどです。

社会保険を過去に遡及して請求されるリスク

契約を偽装して社会保険を免れていた場合、例えば、労働者から後日、厚生年金に当初から入れたはずだからその分の年金相当額を払えと言われ、実際に裁判所で認められたケースもございます。(労働者が採用時に同意したものの後日請求された事案ですので、採用時の同意があれば良いわけではありません)

 

法人の場合には、強制加入となります。また、社会保険と雇用保険は労使折半となり、労働保険は使用者の全額負担となります。この点を頭に入れたうえで、額面が最低賃金を下回らないよう賃金を設定する必要があります。また、新たに人を雇う場合には、様々な届出が必要になりますので、その点もしっかりしておく必要がございます。

労働時間

企業担当者Eさん
従業員にはいつも残業してもらっているが、残業代を払いたくない。何か方法はないか

結論から申しますと、基本的にありません。残業代の未払やサービス残業という言葉がよく聞かれるようになりましたが、経営者にとっての悩みの種が長時間労働に対する対応です。スタートアップ時は、お金がない一方で、新規開拓の営業や事業計画の作成、社内のオペレーション整備等に時間がかかり、しかも会社の売上に直接結びつかない可能性のある仕事が占める割合が高いのが特徴です。

したがって、経営者としてはお金は無いけど働いてもらいたいというのが本心ではないでしょうか。しかしながら、使われる身としては、生活資金を稼ぐために時間を犠牲にして会社のために仕事をしている面も当然ながらあるため、経営者の負担を労働者に転嫁して良いものではありません。

固定残業代制度

昨今では、固定残業代という制度を導入する会社が増えております。しかしながら、制度設計の条件が厳しく、正確な知識のもと導入しなければ固定残業代自体が基本給とみなされてしまいます。そうなると、現時点では残業代は一切支払われていないと評価された上で、今まで支払われた額を基礎として残業代が計算されるリスクがあります。

例えば、20万円の基本給に5万円の残業手当を支給していて、固定残業代が違法とされた場合、25万円をベースに計算された残業代全額の支払いが命じられることになります。

見た目の求人情報はよく見せ、最低賃金ぎりぎりの基本給に何十時間もの残業代を乗せた残業手当を支払った上で、長時間労働を強いる悪質なケースも増えております。そのような場合には、仮に形式上は固定残業代の要件を満たしていても、残業手当という名目の支払の全額が残業代として認定されず、結果的には多くの残業代の支払いを命じられるケースもあります。

管理職

管理監督者という制度が労働基準法にはあり、管理監督者に該当する場合、時間外手当を払う必要はありません。管理監督者にあたるためには、
①経営者と一体的な立場で仕事をしている
②出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない
③その地位にふさわしい待遇がなされている
といった要件をすべて満たす必要があります。すなわち、権限や待遇が十分にあり、役員に近いような存在のものでなければなりません。

しかしながら、名ばかり管理職という言葉が浸透しているように、何の権限もないのに営業支店長などと役職だけは立派なケースもあり、このような場合には管理監督者には当たらず、残業代を支払う義務があります。実際にも、管理監督者であると認めた裁判例は少ないのが現状です。

裁量労働制

業務の性質上、その業務遂行の方法や時間等について、大幅にその労働者の裁量に委ねる必要がある場合には、使用者が具体的な指示をせず、労働時間については労使協定等において定められた時間だけ労働したものとみなす制度があります。

裁量労働制には、
①研究開発その他特定の専門業務についての裁量労働制(専門業務型裁量労働制)
②事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務についての裁量労働制(企画業務型裁量労働制)
の2種類があります。専門業務型裁量労働制の場合は19業務に限定され、労使協定の締結・届出が必要となります。また、企画業務型裁量労働制の場合は、「労使委員会の設置」「監督署長への届出」が必要となり、ともに使用者の指揮監督権は制限されることとなります。

 

以上のように、裁判所は未払残業代に対して厳しい態度で臨んでいるので、その点のケアをしっかりしておく必要があります。制度設計や契約書の書きぶり一つで違法になるケースも多く、専門家と協議する必要の高い問題と言えます。